ほんたうのさいはひ

桜製作所 社長 永見 宏介

column

2015.04.16

久しぶりに、東京工業大学の上田紀行先生からお便りを頂いた。文部科学省教育審議会の新しい指針づくりにお忙しい毎日のようだ。その文面の中に興味をひく内容があった。これからの子どもたちに考えてもらいたい問いかけが、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」にあるという。

"けれどもほんたうのさいはひは一體何だらう"という言葉。周りから疎外され、あたかも幽霊のような存在の少年ジョバンニが、親友カムパネルラと銀河鉄道に乗って旅を続け、出会った様々な人たちとの対話のなかで生きる意味を発見する。旅の終盤に彼らが出会ったかおる子という少女から蠍(さそり)は良い虫だという話を聞き心打たれる。みんなの本当の幸せのためにどこまでも一緒に行こうと誓いあったカムパネルラが突然目の前から消え、ジョバンニは驚いて目を覚ますと彼は川で溺れる友達を救うために自分の命を犠牲にした事実を知る。ジョバンニが幽霊のような自分と決別し勇気づけられて母親のところに帰り物語は終わるが、一番興味があるのはその後ジョバンニがどんなに素晴らしい"さいはひ"の人生を送ったかということだと思う。

賢治が岩手県花巻に生まれた1896年には明治三陸地震、そして亡くなった1933年には昭和三陸地震が起こった。賢治の残した作品にはこうした時代背景から想いを廻らせたものがあり、いま私たちにとても共感するところがあるように感じる。

2011年に東北地方太平洋沖地震が起きて4年、この間に起きた感覚の変化が明らかにあるだろう。これからの若い人たちが、みんなワクワクドキドキする社会となるように生きる意味をしっかりと胸に刻めば、この問いに答えられるに違いない。

人工知能が新しい就労の機会を創造する時代がすぐ間近になり時代はどんどん急速に変化していく。来るべき少子高齢化の社会を悲観するのではなく、頭を柔軟にして創造性豊かな社会の実現のため、自分に何が出来るのかを見つめたい。と同時に宮沢賢治の生きた時代となんら変わらぬ大切なものを見失わないことも益々重要だ。

自然の恩恵を受け我々が生かされていることを忘れて、自然を破壊し子孫の住む環境を傷めることに警鐘を鳴らさねばならない。経済合理の論理で全てを判断することが、決して問題の解決にはならないことを改めて賢治の遺稿の中から痛感した。

桜製作所 社長 永見 宏介

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桜製作所 社長 永見 宏介

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