
値段は上がり続けるという「土地神話」が絶対の時代には、家は財産としてその価値が計算されていた。転勤族の方が転勤先で家を買い、次の転居時に処分して「財テク」ということがよくあった。「これ、商品よ!」と言って、毎日床を磨き柱の手入れに余念のない奥さんに出会ったこともある。しかし、今では夢物語になってしまった。
家を買う理由は、時代によって変化する。1960年代の高度成長期は住宅ローンを借りられるだけ借りて家を建てることが夢であり、「持ち家」が幸せの象徴にも感じられた。経済成長の過程では、家を売る側も買う側にもメリットがあった。
平成に入ってバブルが弾け、売る側と買う側にズレが生じだした。価値観が多様化してきたのも一つの原因かもしれない。バブルを知らない子どもたちが今や、我々不動産会社の顧客である。彼らは家が欲しいというより快適と自由、そして自分らしい生き方が賃貸住宅では得られないから、家を買うしかないと思っているようなのだ。以前、若いお客様が中古住宅を購入し、日曜日ごとに家族皆でタイルを貼り漆喰壁を塗り、約1年かけてリフォームした。完成した内装写真入りの年賀状が我が社に届いた。
しかし賃貸住宅も、DIY(ドゥ・イット・ユアセルフ)やリノベーションすることが契約上可能になった。2016年4月に国土交通省は「DIY型賃貸借に関する契約書式例」と、活用ガイドブックを作成し、公表した。借主が自由に住まいを変えていく楽しさや“したい暮らし”の実現が可能となったのだ。入居者は持ち家感覚で、愛着を持って賃貸住宅で暮らすことができる。損得論では語れない選択肢が増えたのである。
今の若い家族は、35年ローン(420カ月払い)を当たり前のごとく組んでいる。35年間の毎月の支払いと家賃が同じなら、どちらを選べばよいのか。35年後に価値が無くなり修繕費がかかる持ち家と、払い続けなければならない家賃との費用対効果は単純換算できない。だが、資産崩壊しても人生が幸せなら「決算書」は黒字かもしれない。
宅地建物取引士 リアル・ピット株式会社 代表取締役 金森 幹子
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