「見慣れぬ海、見慣れた海」

日本銀行高松支店 支店長 稲村 保成

column

2025.08.07

このたび、日本銀行高松支店長として香川に赴任しました。東京で生まれ育った私にとって、香川での暮らしは初めての経験となります。とはいえ、香川を訪れるのは今回が初めてというわけではありません。およそ9年前、家族とともに四国を旅行した際に香川へ立ち寄り、美しく穏やかな瀬戸内海と島々の景観に強く心を動かされたことを、今でもよく覚えています。

赴任して間もないある晴れた休日に、屋島を訪れました。頂上から見渡す瀬戸内の風景は、当時と変わらず静かで美しく、改めて心を奪われる思いがしました。陽光を受けてきらめく海面に、女木島と男木島が浮かび、空と海の境界がゆるやかに溶け合う光景が広がっていたのです。

その後、支店の職員や地元の経営者の皆さんとお話しする中で、興味深い感覚の違いに気づくことがありました。瀬戸内独特の景観の素晴らしさについて話題にした際、日常の中にあるものとして受け止めている方が多く、中には、太平洋の荒々しい海にかえって新鮮な驚きを覚えるといった声すらありました。

私自身は、東京にいた頃、家族と一緒に神奈川や千葉の海岸によく出かけていたこともあり、広々とした太平洋の風景は、どちらかといえば馴染みのあるものでした。だからこそ、瀬戸内のように凪いだ海に島々が点在する穏やかな風景には、非日常的な魅力をより強く感じたのだと思います。あらためて、人の感じ方は、その土地との距離感や日々の暮らしの中で育まれるものだと実感しました。

産業や経済を見つめるうえでも、こうした距離感や慣れの存在に意識を向けることは大切だと感じています。私たち高松支店では、地域の皆さまから貴重な情報をいただき、統計やデータと照らし合わせながら、地域経済の実態を把握することに努めています。日々の見慣れた動きに、思いがけない気づきや変化が潜んでいるかもしれません。そうした小さな兆しを見逃さず、地域とともに歩んでいけたらと考えています。

日本銀行 高松支店 支店長 稲村 保成

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