最後の読書

著者 津野海太郎/新潮社

column

2019.02.07

職業柄、本、出版、読書などに関係する本が出ると無関心ではいられず、つい手に取ってしまいます。ですから「最後の読書」であって、「最後の食卓」でも「最後の旅」でもなく、もちろん「最後の恋」でもありません。私自身を含めて、たいていの人は70歳前後になる頃には目の老化に始まり、それとともに気力や記憶力や集中力の減退を切実に感じるようになります。

この本は、マンガや大衆小説から歴史やガチガチの思想書まで、さらには市井の人たちの自費出版の本を含めて、希代の雑書多読派であった鶴見俊輔の最後の読書をみちびきの杖にして、あたりを漫歩する老人読書の現状報告だと著者は述べます。

「年齢はどうあれ、ひとは、それまでにかれが生きた過去の体験の集積(経験)をまるごとひっかかえて本を読むし、読むしかない」。つまり年老いた人間の読書が他の年代のひとたちと違うのは、その集積の量が違うということのようです。

鶴見俊輔は老化にともなう「ぼけ」や「モーロク」といった現象を人生からのみじめな脱落ではなく、社会がはめる枷からの自由として明るく理解していたといいます。そして脳梗塞を患い寝たきりになった状態のまま3年半は読書を続けたようです。

なにかのためでなく、じぶんひとりの「習う手応え」や「よろこび」を得るためだけの読書、三歳児の頃の読書を考えてみよ。かつて私はそのようにして本を読みはじめた。とすれば終わりもおなじ、と著者は締めます。

宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

坂出市出身。約40年書籍の販売に携わってきた、
宮脇書店グループの中で誰よりも本を知るカリスマ店長が
珠玉の一冊をご紹介します。
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宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

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