包装紙

桜製作所 社長 永見 宏介

column

2015.07.16

書家である篠田桃紅さんの著書「一〇三歳になってわかったこと」が40万部を超えるベストセラーとなっている。今もなお現役で素晴らしい芸術作品を生み出している様子はNHKのETV特集でも紹介された。半世紀ほど前から私の父が交流させて頂いており、当時お願いして書いて頂いた「桜」という書を我が社の包装紙にデザインして使い続けてきた。

いつのことか忘れたが広告会社に勤めている方が見て、大変素晴らしいから是非わけて欲しいと頼まれたことがあった。最近も女優の小山明子さんが訪ねて来られた時に篠田正浩映画監督の話題になり、従姉である桃紅さんのことを話すとやっぱりわけて欲しいと請われた。我が社は家具屋という仕事柄、商品を包装紙で包むことはないから滅多に使われない包装紙なのだが、そんな包装紙が結構な人気というのも皮肉なことだ。

三越が半世紀以上使い続けてきた猪熊弦一郎「華ひらく」の包装紙が昨年、一新された。老舗の新たなる挑戦にとても驚いた。長く使い続けることは難しいが、新しくするのもまた難しいことだと思う。

話がそれて恐縮だが、本題のこの一冊は、103歳という年齢を生きてきたと同時に、国際的にも評価の高い希有なアーティストとしての経験の数々を垣間みる事ができ、とても楽しめた。孤高の哲学に溢れた名著であり、個人的にも座右の書にすべき傑作と感じた。早速に人数分を買って会社の全員に配った。「美しい」ということ、「幸せ」ということを、人生の達人の一言ひとことから習得することが少しでも出来ればとても嬉しい限りである。

また、生涯着物で過ごされている篠田さんは、日本の伝統である着物文化が末端から壊れていることを嘆いておられる。伝統文化を継承することの難しさである。先日京都の染織家吉岡幸雄さんに伺ったお話だが、藍染めの藍も絹糸の絹も漆芸の漆も国産で手に入れることがどれほど難しい時代になったか。

我が社も木工職人として働く社員が何人かいるが、マニュアルで教わることが如何に少ないことか。伝承する為には時間をかけた経験が必要とされる仕事が如何に多いのかという現実にも日々苦闘している。価値深い豊かな人生を生き抜くために、先人が伝え残してくれる言葉をよく噛み締めたい。

103歳にして飽くなき新しき創造をし続ける孤高の芸術家の姿は、我々に勇気を与え続ける。

桜製作所 社長 永見 宏介

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桜製作所 社長 永見 宏介

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