うどんがソウルフードたる由縁

野菜ソムリエ 上級プロ 末原 俊幸

column

2015.07.16

麦秋(写真提供:高松市観光交流課)

麦秋(写真提供:高松市観光交流課)

県外から来られた方をうどん店へ案内したとき、「うどんは香川のソウルフードだから」という解説を入れる方も少なくないかもしれません。では、なぜソウルフードなのでしょうか?うどんの主原料である「小麦」から私たちの食生活を見てみましょう。

「讃岐の人は牛や馬のように麦を食べる」。これは明治時代に東北の方が新聞に投稿したフレーズと伝えられています。それでは、どれ程の量の麦を食べていたのでしょうか?今から81年前、1934年(昭和9年)のデータをご覧ください(表1)。麦と米の作付け面積がほぼ同じことに驚かれると思います。香川県オリジナル小麦「さぬきの夢」の作付けが増えてきた現在でも、当時の作付け面積には到底及びません。麦秋という言葉があるように、初夏の讃岐平野には稲が実るがごとく麦が色づいていたこと、そして食べていたことが想像出来ます。

では、なぜここまで麦を重要視したのでしょうか?香川県では、農家一件当たりの耕地面積が狭く収穫出来る米が少ないうえ人口密度が高かったため、食料としての米が不足しておりました。そのような中、冬場の温暖で雪や雨が少ない香川県の気象を活かし、米の裏作として栽培が出来る麦は、まさに讃岐の食生活の救世主のような作物だったのでしょう。

小麦は貯蔵が効いて使い勝手の良い食材として重宝されてきました。日常的には、裸麦は麦飯に、小麦は団子、打ち込み汁等といろいろな料理に姿を変えました。そして「ハレ」の日には手間と時間をかけうどんを作りました。また麦味噌、醤油、家畜の飼料に、そして麦わらは麦稈真田(ばっかんさなだ)などの民芸品と、実に多岐にわたり活用され、先人の胃袋と家計を潤してきました。

讃岐の食生活における麦への依存度は数値的にも明らかになっており、総務省が行っている全国家計調査によると、高松市ではうどんだけでなく、パンや小麦粉の消費量が多いのです(表2)。一方で、お米の消費量は全国でも最低レベル。過去何百年の間に築き上げられた食生活が、今もなお私たちの生活の中に息づいていることには驚きますね。

讃岐うどんをソウルフードと呼ぶのは、美味しいからや日常的に食べているからではなく、麦という食品が私たち讃岐の人々の命をつないできたことに由来する、そう思うとより一層うどんに愛着がわきませんか。

【食材紹介】細ネギ

香川県にはうどんの薬味として使用するために栽培されている「細ネギ」という野菜が存在し、その特徴は流通システムにあります。高松市中心部(福岡町)など近郊で栽培された細ネギは、卸売市場を経由し、収穫してから時間を経ずに県内の店頭に並びます。鮮度がもたらす香りと柔らかさが、うどんの味を引き立てます。

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