製塩業から総合商社へ 先人の思いをつないで

林田塩産 社長 谷 俊広さん

Interview

2025.06.05

創立記念の神事が行われた塩釜神社=5月12日、坂出市林田町

創立記念の神事が行われた塩釜神社=5月12日、坂出市林田町

「社名を変えるつもりはありません」

5月12日、坂出市林田町の塩釜神社で厳かに行われた神事。林田塩産が毎年、創立記念日に実施している「神社祭」だ。谷俊広社長(58)ら幹部が出席し、神妙な面持ちで先人への感謝や、今後の事業の無事を願った。
不動産業、倉庫業などを行う坂出市・林田港周辺

不動産業、倉庫業などを行う坂出市・林田港周辺

1883(明治16)年、瀬戸内海沿岸の広大な塩田で製塩事業を立ち上げた林田塩産。1971年に国の方針で塩田が廃止された後は方向転換し、敷地面積24万㎡、東京ドーム5個分の塩田跡地を活用した不動産事業や倉庫業の他、建材工事や建材販売、タイやベトナムから輸入したミニマム・アクセス米(日本が海外から最低限輸入しなければならない米)の低温管理などを行う穀物事業、ガソリンスタンド経営や太陽光発電などのエネルギー事業に水処理事業など、コングロマリット型企業として歩みを進めてきた。

今年で実に創業142年。今は塩に関わる事業は行っていないが、社名は「林田塩産」のまま。「私の代で変えるつもりはない」と9代目社長の谷さんは力を込める。

「先人が受け継いできた歴史ですから。お客さんから『なぜ“塩産”なんですか?』と尋ねられることも多いので、話のネタになるんですよ」と笑う。
谷さんは10年前に社長になった際、会社の事業報告書を第1期分から全て読み返したという。「創業時や、日清、日露、太平洋戦争……時代時代での苦労が詰まっていました。先人から次の世代へしっかりとバトンをつないでいく。それが私の使命だと思っています」

“幅”を広げる「価値観研修」

谷さんが最も力を入れているのは社員教育だ。「もちろん私もまだまだ勉強しないといけませんが、お客さんと接する機会が多いのはやはり社員。お客さんへの思いや、私たちの会社がどのように社会に貢献していくのか……そういった意識が高いかどうかが、会社の質につながっていくと思うんです」
毎年、創立記念日に行う「神社祭」=坂出市林田町の塩釜神社

毎年、創立記念日に行う「神社祭」=坂出市林田町の塩釜神社

積極的に行っているのが社員研修。その一つに「価値観研修」がある。「まずは私自身が受けてみて、『自分をもっと大切にしたいと思えるものだなあ』と感じたので取り入れました」

自分のルーツを振り返ったり、自分自身をさらけ出したりすることで、例えば子どもの頃に抱えたトラウマなどを排除していくというもの。研修を通して、谷さんが社員に求める姿とは?

「周りの人を大事にしようとか、受け身ではなく能動的に自分の人生をつくっていこうとか、人としての幅を広げ、社内で善循環していけば、と思っています」

さらに、職能研修やコーチング研修も導入。部下を評価する上司に対しても「好き嫌いの感情で評価したり、部下の過去の失敗をいつまでも引きずっていたり……そんな傾向も見られたので」、考課者研修も取り入れ、2年前に給与制度と評価制度を一新した。「少しずつ、会社が前向きになっていると感じています」と谷さんは話し、こう加える。「社員の生活を守り、仕事のやりがいを生み出していくのが私たち経営陣の役目です。将来入ってくる社員のためにも良い社風をつくっていく。それが“続いていく会社”だと思うんです」

社員との“2つの約束”

今年の年頭式で、谷さんは社員に2つの約束をした。

1つは「年収の1%を児童養護施設に寄付します」

全国的に塩田が廃止された50余年前、当時の林田塩産の社長は祖父だった。社員は職を追われ、小学生だった谷さんは学校で、社員の家族らからいじめを受けた。いじめられたことはつらかったが、同時に「世の中は不公平だ」と感じた。

「私は恵まれていたんですよね。でも今も、ネグレクトなど家庭の事情でスタートラインが違う子どもがいる。私の寄付がどこまで役立つのかは分かりませんが、将来を担う子どもたちに少しでも『見守られているんだ』と感じてほしい。これは私の人生の大きなテーマでもあるんです」
創業142年。しっかりとバトンをつないでいくのが私の使命

創業142年。しっかりとバトンをつないでいくのが私の使命

約束したもう1つは「社内ベンチャー・スタートアップ制度をつくります」

フォーマットを作成し、「採算に乗るかどうか」、「10年で収益をとんとんにする」といった「見える化した仕組みにしようと思っています」と谷さんは意気込む。「社員一人ひとりが仕事に対して喜びを感じるような状況をつくり出していきたいですね」創業100年超の長寿企業を率いるのは「プレッシャーもあるが、幸せなこと」と話す。

会社のモットーは“思いをつなぐ、明日を拓く”。

「この先もずっと今の事業が続くとは思わない。でも、香川で確固たる地位を築き、地域のために頑張れる総合商社でありたい」と力強く語り、こう続ける。「県民の暮らしが潤うよう、いろんな商品やサービスを探し出して橋渡しするのが商社の役目。先人の思いをつないだビジネスを展開し、地域に根差していきたいと思っています」

篠原 正樹

谷 俊広 | たに としひろ

略歴
1966年 坂出市出身
1988年 日本大学法学部 卒業
     株式会社エーアンドエーマテリアル勤務を経て
1996年 林田塩産株式会社 入社
2015年 代表取締役社長

林田塩産株式会社

住所
香川県坂出市入船町1丁目3番12号
代表電話番号
0877-44-2828
設立
1894(明治27)年2月2日(明治16年創業)
社員数
グループ計100人
事業内容
不動産の管理運営、賃貸借
米穀低温倉庫運営
セメント各種販売、生コンクリート販売
各種ALC(クリオン)工事一式、押出成形セメント板(メース)工事一式、各種耐火被覆工事一式、スレート、サイディング工事一式、断熱工事一式(現場発泡ウレタン吹付工事)、外付けブラインド(ヴァレーマ)工事一式
石油製品販売(燃料油・潤滑油)、ガソリンスタンド経営(坂出東SS・郡家SS)、LP ガス販売、太陽光発電事業
水処理薬品販売、水処理装置販売・メンテナンス、化学洗浄工事一式、各種水処理機器関連機材販売、各種用水・排水の分析検査
グループ
高松レミコン株式会社、中讃協業生コン株式会社
地図
URL
https://h-ensan.com/
確認日
2025.06.05

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