タオルからパンまで、自社一貫生産で社員を守る

ユタカ 代表取締役 大西 日出機さん

Interview

2020.01.16

社内でデザイン、印刷、縫製を行うため、タオルの全面印刷が可能に。  善通寺市のユタカ本社で

社内でデザイン、印刷、縫製を行うため、タオルの全面印刷が可能に。

善通寺市のユタカ本社で

金額も設備もオープンに

外注業者に頼らず内製化100%。オリジナルのタオルとTシャツを製作・販売するユタカ(善通寺市)が、10年計画で2016年に達成した目標だ。ホームページで注文を受け、デザイン、印刷、縫製の全工程を社内で行う。

タオルの注文は年間360万枚。検索エンジンで「オリジナルタオル」と入れると、ユタカのサイト「たおる本舗」が上位に表示される。顧客を獲得する秘訣は――。代表取締役の大西日出機さん(76)は「ネットでは互いに顔が見えませんから、お客様の気持ちを丁寧に聞き取り、可能な限り満足していただけるように心掛ける。その積み重ねでしょうか」と話す。

05年のサイト立ち上げから、ユーザーには設備など生産体制をありのまま見せてきた。「機械などを導入するたびに写真を公開。『自動見積り』の導入も早かった。それも個人情報を記載しなくても正確な金額がわかる、食い逃げ可能なシステムです」

自社生産であれば、すぐに見積金額を出せる。外注業者に60%ほど依存していた印刷や縫製などの加工を、社内で行うことにした。それが内製化100%につながった。注文は1万枚までしか受けず、自社一貫生産の「高品質、小ロット、短納期」に特化する。

100の代理店と決別

「たおる本舗」はハンドタオルからバスタオルまで様々なサイズに対応

「たおる本舗」はハンドタオルからバスタオルまで様々なサイズに対応

ユタカは、大西さんが1977年に創業。問屋からタオルなどの生地を購入し加工、代理店を通じて販売していた。2005年にBtoCへ転換し、100社あった代理店との取引をやめた。「価格とデザインは、代理店がお客様と交渉して決める。与えられた仕事をこなすだけで、技術も営業力も育たない。代理店に仕事を切られたら、経営は立ち行かなくなる。そんな状況に怖さを感じたんです」

しかし社員も金融機関も大反対。「そりゃそうです。私が先頭に立って、代理店を開拓していたんですから。でもね、経営方針を変えないと社員を守れないと思ったんですよ」。直接エンドユーザーへ商品を届けるために始めたのが、ネット販売だった。

ユタカでは既製品のタオルやTシャツへの印刷も行うが、より付加価値の高いオーダーメイド商品に力を入れる。オーダーメイドのものは、大きな生地にデザインを印刷した後で、裁断・縫製する。タオルは端から端まで、Tシャツは360度、余白なく図柄を配置できる。

縫製も内製化するために、ロボットミシンを導入。福井県までメーカーを訪ねて、バスタオルも自動で縫える特注ミシンを作ってもらった。

パンも野菜も「内製化」

手作りパンや窯焼きピザを販売する「焼きたてパン工房ゆたか」

手作りパンや窯焼きピザを販売する「焼きたてパン工房ゆたか」

ユタカが内製化したのは、印刷や縫製だけではない。16年に社員食堂が完成。食堂スタッフも社員が中心だ。近隣農家からお米や野菜を仕入れ、肉と魚も市内で調達。毎日120食の定食を作る。福利厚生の制度を工夫し、社員は無料で昼食を食べられる。

大西さんは、食堂の完成が何よりも嬉しかったという。「学生時代、貧乏で食えなかった。友人のお母さんが作ってくれる食事がおいしくて。食べることほど、人の心を打つものはありません。社員食堂は、創業時からの夢でした」 

社員から食堂でパンを食べたいとの要望があった。食堂スタッフがパン作りを学び、昼食にパンも用意。「あまりにもおいしいから、販売したらどうかという意見が出て」。17年、本社食堂内に「焼きたてパン工房ゆたか」を開店。店舗内にLED菜園を設置し、パンの具材に使うレタスやバジルも育てている。

「内製化が癖になってしまって」と笑うが、大西さんには違う狙いもあった。知人の会社が東日本大震災で被災し、100人の全社員を解雇したという話が心に引っかかっていた。何かあったときのために、本業とは関連のない事業が必要だと考えていた。「印刷・縫製工場が被災したら、復旧に相当な時間がかかる。パンは、人と材料がそろえば再開できます」。パン工房は20年5月、店舗面積を拡大してリニューアルオープンする予定だ。

付加価値は高く、労働は短く

社員食堂とパン工房ができたことで、近隣の農家や住民との交流も生まれた。「地域に応援されなければ、経営はうまくいかないでしょう。印刷工場は多少のにおいがあるし、パン屋は車の出入りが多い。みなさんから『ちょっと騒々しいけれど、ユタカはここにいてもらったほうがいいね』と言われる会社でありたい」。検品の段階で出荷できなかったタオルを、真空パックにして備蓄。災害時、地域へ無償で提供する準備をしている。

会社にとって大切なのは、地域そして社員とその家族だと考える。たおる本舗の顧客は、6割が関東。ビルのワンフロアを購入し、東京支店を置く。「所有物件にすることで私の覚悟が伝わり、支店の社員もモチベーションが上がります」。本社社員食堂の定食は、真空パックを冷凍して送ることで、支店でも食べられる。

「単価が安い商品は、多く作って多く売らなければならないため、働く時間が長くなる。それは時代に逆行しているし、社員を大切にできない」。ユタカは商品の付加価値を高めることで、利益を上げる。そうすれば労働時間は短くできる。社員もユーザーも納得のいくオリジナル商品を、これからも作り続けていく。
「無料の社員食堂は、創業時からの夢だった」

「無料の社員食堂は、創業時からの夢だった」

鎌田 佳子

大西 日出機|おおにし ひでき

略歴
1943年 善通寺市生まれ
1962年 善通寺第一高校 卒業
1968年 早稲田大学 卒業
1977年 豊産業 創業
1978年 有限会社 豊産業 設立
1989年 株式会社ユタカに社名変更
2000年 東京支店 新設
2005年 オリジナルタオルWeb販売店・たおる本舗 開始
2009年 オリジナルTシャツWeb販売店・Tシャツ本舗 開始
2016年 社員食堂 開始
2017年 焼きたてパン工房ゆたか 開業

株式会社ユタカ

住所
香川県善通寺市下吉田町151
代表電話番号
0877-63-3536
設立
1977年
社員数
96人
事業内容
オリジナルタオル・Tシャツの製作・販売など
資本金
2,000万円
東京支店
東京都千代田区神田三崎町3-3-20 VORT水道場橋Ⅱ3階
地図
URL
https://www.yutaka-towel.com/
確認日
2020.01.08

記事一覧

おすすめ記事

メールマガジン登録
メールマガジン登録
ビジネス香川Facebookページ