赤ちゃんから高齢者まで 目指すは、食のバリアフリー

Foodtec(フードテック) 社長 青山光一さん

Interview

2019.08.15

プロレスラーとしてスカウトされた経歴をもつことにちなんでこのポーズ(三豊市詫間町詫間の本社)

プロレスラーとしてスカウトされた経歴をもつことにちなんでこのポーズ(三豊市詫間町詫間の本社)

おいしくなければ健康にならない

20年以上前、介護施設などで提供される食事は普通に調理した後、介護食用におかずをすべてミキサーにかけて食べやすくするケースが多かった。「確かに栄養はとれるけれど、茶色くてどろっとしていておいしそうじゃない。これではいけない」。そう思った青山光一さん(60)の義父が、経営していた冷凍食品工場の技術を生かし、高齢者向けの調理済み冷凍食品の分野に進出したのがフードテックの始まりだ。

当時は、今ほど介護現場も人手不足ではなかったため、なかなか理解してもらえず苦労したという。青山さんが入社した1998年ごろも、状況は大きく変わっていなかった。何とか現場に理解してもらいたいと介護施設に出かけ、さまざまなニーズを聞いた。分かったのは、普通食とミキサー食の「間」の食事が必要だということ。そこで、介護施設の力を借りながら“おいしい介護食”の開発を進めた。

まず、こだわったのは食材を生かしたきれいな色に仕上げること。また、テリーヌ状になっても肉や魚、天ぷらなど、料理本来のおいしさや食感をできるだけ残すよう工夫した。最も苦労したのは食品が“くずれる速度”。口の中に入れた時は素材の風味が楽しめる。その後、素材が素材が自然にくずれながらも、飲み込むときは適度なかたまりを保ったままのどを通り、誤嚥(ごえん)を防ぐような商品に仕上げる。「病院とも共同で研究しました。私自身が実際に食べてみて、それをエックス線で見ながらくずれ具合を検証するという実験もやりました」。試行錯誤すること2年、ようやく商品化にこぎつけた。

介護食のシリーズは、かむ力が弱くなった人向けの「やわらか食」と、キレイな色の「ミキサー食」の2種類。レンジやお湯で温めるだけで料理が完成する。「当初は赤字で不安もありました。でも、今まで食が細かったおばあちゃんが自分からスプーンを取って食べ始める。そういう姿を目の当たりにすると、これは社会的価値の高い仕事なんだ、と思えました」。介護食は弱ってきたから食べるものではなく、元気になるために食べるものだ。おいしいと感じることができれば、ミキサー食からやわらか食、普通食に戻る可能性もあると考えている。

今がどん底だと思って努力する

社会的に意義のある仕事に誇りをもっています

社会的に意義のある仕事に誇りをもっています

異色の経歴の持ち主だ。12歳から柔道を始め、で恵まれた体格と才能を生かして実力を伸ばし、オリンピックの候補選手にまでなった。ロサンゼルスオリンピックに向けた合宿では、金メダリスト・山下泰裕さんとともに練習した。オリンピック出場の夢は果たせなかったが、競技は続けた。「歓声を受けながら戦うあの独特の感覚が好きでした。ただ、30歳の時、ある大会で後輩に負けて、ふんぎりがつきました」

指導者としての道は選ばず、その後15年群馬と神奈川で教員として勤務。同じく教員をしていた妻の帰郷をきっかけに、義父の経営する会社に入社した。「数年は勉強のためにほかの食品メーカーで勤務しました。新鮮な経験でおもしろかったですね」

20年近く、いろいろなことを犠牲にして打ち込んだ柔道とは全く違う世界。ただ、苦しい時は選手時代のことを思い出すという。「今はどん底だからこれ以上悪くなることはない、と思うようにしていました。だから努力すれば必ずいい方向にいく。何もしなければ道は開けない。それは事業も同じだと思います」

少量多品種で差別化

開発部門のスタッフたち

開発部門のスタッフたち

フードテックには、営業職の人がいない。大手スーパーをはじめ、顧客は全国から依頼をもって集まってくる。その理由を「少量多品種」に対応できる柔軟さとスピードだという。会社の核となる開発部門は、フレンチのシェフや管理栄養士など10人ほどのスタッフがチームになって取り組む。
 介護食シリーズより前に発売していた「冷凍おかずセット」は、核家族化や高齢化で“個食”の人が増えている中、それに対応する商品をつくってほしい―というメーカーの要望を受けて開発した。それまで、家族用の人数分で販売されることが多かった冷凍食品を、栄養バランスも考えられた一人分の主菜・副菜のセットにした点が市場に受け入れられ、販売数が伸びた。「毎日同じメニューは食べたくないでしょう?だから365日分すべて違うおかずを考えました」
介護食シリーズの一部

介護食シリーズの一部

ほかに、糖尿病・肝臓病などに対応した病院用の食事、スポーツジム向けの糖質オフの食事なども開発した。「うちぐらいの規模でないと、小回りの利く対応はできないと思います。“少量多品種”は大手にはない強みです」

余計なものを添加せず、素材だけをそのまま冷凍する自社商品は、安心安全な食品だ、という自負がある。その安全性と技術の高さを買われ、離乳食開発にも携わった。「大変でしたが、働くお母さん、お父さんの役に立つ、社会的意義があるからやろうと決めました」

人間にとって食べることは楽しいこと。赤ちゃんも大人も、介護食の人もあらゆる人が垣根なくおいしいものを食べる喜びを――。目指すは「食のバリアフリーです」

石川恭子

青山 光一 | あおやま こういち

略歴
1958年 神奈川県生まれ
1977年 桐蔭学園高校 卒業
1981年 筑波大学 卒業
    群馬県の県立高校教諭
1984年 神奈川県の県立高校教諭
1998年 株式会社 フードテック 入社
2005年 代表取締役

株式会社 フードテック

住所
香川県三豊市詫間町詫間2112-144
代表電話番号
0875-56-5500
設立
1998年
社員数
132名
事業内容
冷凍惣菜の製造及び販売
地図
URL
https://www.foodtec.co.jp/
確認日
2023.11.16

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