地域で育む福祉 すべては利用者のために

全国老人福祉施設協議会 会長 石川 憲さん

Interview

2014.12.18

全国老人福祉施設協議会には特別養護老人ホームなど全国約1万2000施設が入会している。会長の石川憲さん(66)に休みは無い。平日は厚労省との折衝や、全国の会員施設を回り、意見交換したり要望を受けたり。週末は地元香川に戻り、理事長を務める社会福祉法人香東園の執務を行う。「しんどいことは分かっていたので、正直、会長職は断ろうと思っていました。でも、一度死んだ身。やってやろうと踏ん切りをつけたんです」

11年前、悪性の腫瘍が見つかった。「多発性骨髄腫」。血液のがんだ。抗がん剤治療を1年間続け、業務に復帰した。残された時間すべてを福祉に捧げようと心に決めた。

「自分たちが福祉を支えるんだ、という意思統一された町づくりが出来れば、これほど強いものはありません」

福祉は地域で支えていかなければならない。石川さんは強い口調で語る。
香東園の職員、利用者の皆さんと=高松市岡本町

香東園の職員、利用者の皆さんと=高松市岡本町

施設と利用者守る壁になる

「社会福祉法人はお金を儲けすぎている、と国は言いますが、そんなことはありません」

来年4月、介護サービスを提供している事業者が受け取る料金、介護報酬が改定される。介護保険から支払われるもので、事業者の経営状況や物価などを見て、3年ごとに見直されている。見直し議論は今が佳境だ。少しでも引き下げたい国側と、阻止したい福祉施設側。全国の施設を束ねる組織の代表として、石川さんは最前線で国と戦っている。「財務省は介護報酬を6%下げたらいいというわけです。そんなことをされたら施設の半分以上が赤字に転落します」

公益事業を行う社会福祉法人は、所得税、固定資産税などが原則非課税だが、民間の福祉事業者と同様に課税すべきでは、といった声も上がっている。「株式会社は収益を上げることが大きな目的の一つ。我々と目指すところが違う。比べること自体がおかしいんです」

常に介護が必要な高齢者が入所するのが特別養護老人ホームだ。5段階ある要介護認定(5が最重度)で1以上と判定されれば利用できるが、定員が決まっているため現在全国で約52万人が入所できず待機している。以前、厚労省の職員がこう言ってきた。「介護度が低い人は特養に入れないようにするのはどうか」。石川さんは怒鳴り声を上げた。「あんた、何を言ってるんだ」。すると職員はこう返してきた。「そんなに怒るとは思ってもみなかった。介護度1の人が入るより、3や4の人が入った方が施設側も収益が上がるでしょう」。それを聞いて、また怒りが爆発したという。石川さんはこう説明する。「確かに介護度が高くなれば収益は上がります。しかし、介護度1や2の人の多くは認知症の方です。本当に行き場が無いんです。そういった人たちを見捨てることは出来ません」

国との折衝では一歩も引くことは出来ない。そこには、施設を取り巻く環境を少しでも良くしたいという強い思いがある。そしてその先には、救いの手を待つ利用者がいる。

「施設は利用者のためにあるんです。利用者が満足できる施設を作る。そうならないと、この国の福祉は成り立ちません」

人の幸せとは何なのか

石川さんは今も闘病中だ。仕事の合間を縫って定期的に病院で検査を受けている。薬は片時も手放せない。両手は常に痺れていて、足元は一部が完全に麻痺している。めまいに襲われることもしばしばあるという。「厚労省にはドクターも多いんです。あなた、ようやってるなあってよく言われます」

39歳の時、サラリーマンから転身し、さぬき市の香東園に入った。間もなく、入所していた身寄りのないお年寄りが施設で亡くなった。広い寒々とした火葬場で、たった一人でお骨を拾った時のことを今でも鮮明に覚えている。「この方も生まれた時は皆に囲まれて祝福されていただろうに・・・・・・」。自然と涙があふれてきた。人間の幸せとは一体何なのか、ずいぶん考えさせられたと振り返る。

「この時初めて、利用者のために何をすべきなのか、自分の使命は何なのかが明確になりました。この仕事の価値や誇りが一本の線で繋がった気がしたんです」

社会福祉のあるべき姿

超高齢社会が到来する「2025年問題」に石川さんは今、心を砕いている。団塊の世代が75歳以上になり、医療や介護の需要が加速する。また、国民の3人に1人が65歳以上で、このうちの7割が一人暮らしか夫婦のみの世帯になる。高齢者1人を現役世代(20~64歳)1.8人で支える社会構造になるとも試算されている。

利用者のための10年後の福祉。やらなければならないことはたくさんある。

「まずは組織の改革です。老人ホームと言えば、高齢の偉いさんが権限を持って、若い人の意見を全然吸い上げない。それをどんどん打ち破ろうと思っています」

全国老施協では、若手有志が「21世紀委員会」を立ち上げ、全国各地で開くミーティングなどでサービスの質の向上や介護職員の処遇改善などを検討している。先日、仙台市で委員会の「現場発進の集い」が開かれ、石川さんも駆けつけた。全国から集まった若者350人を前に「皆さんにバトンタッチする時代がやってきた。社会福祉を取り巻く様々な課題に若い力をぶつけてほしい」とエールを送った。「若い人が本当に真剣になってやっていかないと老人福祉の将来はありません。ベテランから若手へと体制を変える橋渡しをやっていこうと思っています」

業界では人手不足も深刻だ。全国の施設で慢性的に職員が2割ほど足りていないという。人員に余裕があれば、在宅介護で特養待機者のケアなども出来るが、「なり手が少ないんです。仕事が大変で給料も良くない、といったイメージがあるんでしょう。でも昔と違って待遇はかなり改善されています。悪いイメージを払拭するようなアピールをもっとしていかなければなりません」

そして石川さんは、将来の日本の福祉像を思い描く。

「医療施設や地域とも連携し、利用者の要望にお応えしていく。家に居たいと言えば、ヘルパーが2時間行きますよとか、この時間帯は近所の人が見ましょうかとか、そういった連係プレーが取れるといいですね」。さらにこう加える。「福祉は単なるビジネスではなく、日本という国を映す鏡でもあります。この国に生まれて良かったと安心でき、誇れる社会保障制度を作る。それが我々の目指すべき姿ではないでしょうか」

石川 憲 | いしかわ けん

1948年6月21日 さぬき市生まれ
        大学卒業後、ソフトウエアエンジニアを経て
1987年 社会福祉法人香東園 園長補佐
2001年 香川県老人福祉施設協議会 会長
2005年 社会福祉法人香東園 理事長
2009年 全国老人福祉施設協議会 専務理事
2013年 全国老人福祉施設協議会 会長
写真
石川 憲 | いしかわ けん

公益社団法人 全国老人福祉施設協議会

住所


東京都千代田区平河町2−7−1 塩崎ビル2階
TEL:03-5211-7700
FAX:03-5211-7705
設立
1962年
事業内容
高齢者の福祉の増進に関する調査研究、研修、普及啓発活動、相談支援 他
確認日
2018.01.04

社会福祉法人 香東園

住所


高松市岡本町527番地1
TEL:087-885-2828
FAX:087-885-2800
運営施設

特別養護老人ホーム岡本荘、ケアハウスおかもと、特別養護老人ホーム香東園、盲養護老人ホーム香東園、軽費老人ホームB型華山、特別養護老人ホーム絹島荘、小規模多機能型居宅介護えんざ、ケアセンター松縄、地域密着型複合施設香東園やましな、ラビパラ保育園、介護老人保健施設香東園やましな、椿温泉、カメリアデイサービスセンター、華山ファミリークリニック
確認日
2018.01.04

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