ビジネス香川では、プライムパーソンスペシャル企画として、百十四銀行の渡邊智樹頭取、手芸センタードリームの小野兼資社長、ことでんの真鍋康正社長に、香川の今と未来について大いに語っていただいた。
香川経済を引っ張る3人のリーダーが挑む2015年。熱いトークの中から、香川をそして地方を元気にするためのいくつかのヒントが見えてきた
若者に地元企業をアピール 受け皿はいっぱいある 渡邉 智樹さん
渡邊:日本経済はアベノミクス効果によって、大企業を中心に業績が改善して、明るさが見えています。ただそれが中小企業まで届いてきているかというと、なかなかうまくいっていないのではないかと思います。統計は加重平均しますから、大企業の業績が良くなれば、中小企業は少し悪くても、景気が良くなったように見えます。アベノミクスの実態というのは、今はそこまでだと思います。
香川県も全国と同じで、外需型産業の景気は持ち直しているものの、内需型については厳しい状況が続いているのではないでしょうか。金融機関にとっても、金融緩和の追加、継続という形は非常に厳しい。なかなか利益の伸びない状況になってきています。
小野:東京オリンピックの開催が決まってから、首都圏では非常に活気が出てきたように見えます。出張に行ってもホテルが取りづらいとか、建物の着工件数が増えている印象があります。首都圏では景気がいいイコール小売業がいいというわけではありません。家賃が上がったり、出店しづらくなったりしますので。これから人口が減っていく中で、一番感じるのは人手不足。香川県の店舗で言うと、販売スタッフの求人を出しても応募者が少ないのが現状です。
真鍋:人手不足について言えば、不思議ですよね。あまり景気が浮揚している感じがしないのに、人が全く採れない。われわれの会社も、今まで地元優先で採用していましたが、県外採用、Uターン、Iターン採用を積極的に増やしています。視野を全国に広げて、優秀な人を採用していきたいと思っています。
ことでんは、地元の方を運ぶ運輸業。景気が良くなっているという実感はあまりないですが、観光や出張で県外から来られる方は増えているという印象があります。東京の大企業を中心に景気が回復して、その人たちの移動が加速しているようですが、地方に反映しているかというとまだそこまで至っていないというのが実感ですね。
若者に「香川での暮らし」を提案
小野:学生は企業のことをあまり知らないのではと思います。一部の大企業や業種は知っているけれども、地元にどういう企業があって、どういう活動をしているのかを知らない。香川にも素晴らしい企業はたくさんありますので、うまく学生とマッチングできれば、就職につながるでしょう。どんどんアピールして、香川に残ってもらわなければなりません。
真鍋:東日本大震災以降、都会から香川に移住してくる人が多いように思います。地元の若者が外へ出ていくのは昔から変わらないと思いますが、一方で、帰ってくる人たちの動きも加速していると感じます。面白い若者がUターンやIターンをしてきているという印象ですね。彼らは、自分のライフスタイルや家族とどう暮らしていくかを真剣に考えています。価値観の変化も感じます。若い世代に向けて、香川ではどのような暮らしができるかといった提案をしていく必要があるように思います。
景気に関わらず、努力して認められないと商品は売れない 小野 兼資さん
渡邊:3月の駆け込み需要の後、その反動で個人消費が落ち込んで・・・というのは、基本的に想定の範囲内でした。8月の天候不順などで14年7~9月期のGDP速報値の数字が悪かったということで、悲観的に見る向きもありますが、悪い悪いと言って変にマイナスイメージを植え付けているような気がします。景気回復の動きは少し良くなっているよと、盛り上げていけばいいと思います。
真鍋:もともと香川の人は貯蓄好きと言われていますので、消費税によって何か変わるということは今後もないように思います。われわれは電車を走らせていますが、消費税の何%かで大きく客足が伸びた減ったという話は特にありません。原料価格が変わるとか、原油代や電気代が上がるとか、気候の問題の方が、はるかに影響があります。いずれにせよ、「いつ何%上げる」とはっきり決めて、それに沿ってやってほしいというのが、一国民としての願いです。
小野:駆け込み需要の反動で、4月に少しダウンしましたが想定内でした。思ったより少ない影響でしたが、店舗に数万点のアイテムがあるので、価格の付け替え作業やレジの仕組みの入れ替えなど、そういったことでバタバタしました。8%だと消費税はいくらというのが計算しづらいですが、10%になると計算しやすい。マインド面では10%になると影響があるように思います。ただ、いつまでも先延ばしにはできないと思いますので、真鍋さんがおっしゃったように、「いつやる」と決めてほしい。それに対応していくほかないですね。
真鍋:ことでんでは、14年10月より70歳以上の高松市民の運賃が半額になるゴールドIruCaを高松市と発売したところ、予想をはるかに上回るお申し込みがありました。シニアの方々は、消費増税以上に老後のライフプランや社会保障制度がどうなるのか、いろいろ心配されているのでしょう。政府が安心感をしっかり与えてくれれば、消費増税は納得できるものになるのではないでしょうか。
電車、バス、駅ビル 香川を楽しめるプランを提案したい 真鍋 康正さん
<小野さんから真鍋さんへ>
小野:ことでん瓦町ビルを町のシンボルとして活性化してほしい。できることは私も協力しますので。
真鍋:今までのビルではなく、これからの地方都市に合ったビルをつくっていく必要があると思っています。私はコンビニエンスストアの経営もしており、それが鉄道の仕事にも役立っています。コンビニの競争は激しく、日本人のライフスタイルの変化にものすごく敏感なビジネスです。コンビニで学んだ知見を活かして精一杯頑張りたい。いい形でオープンできる2015年にしたいですね。
ことでん瓦町ビル
高松市常磐町の商業複合型駅ビル。入居していた百貨店が14年3月に撤退。所有する高松琴平電気鉄道が今年のグランドオープンを目指し後継テナントの選定などを進めている。
<真鍋さんから渡邊さんへ>
真鍋:香川では外国人観光客の増加が顕著です。地元企業を取りまとめるなど外国人が滞在しやすい香川にする支援をぜひしていただきたいと思います。
渡邊:外国人対応については、クレジットカードやキャッシュカードがどこでも使える環境を行政などと協力しながら整備していきたいと思っています。金融面もそうですが、英語など外国人を受け入れる基本的な準備がまだ足りない。「ハロー」と声を掛けるだけでもいいと思います。そういう取り組みを応援していきたいですね。
<小野さんから渡邊さんへ>
小野:新しいビジネスをするにあたって、銀行のポテンシャル、情報量の大切さを感じます。よもやま話やこちらの実情を気軽に話せるような、親しくお付き合い出来る関係を築ければと思います。
渡邊:その通りだと思います。私ども役員でも、10年前と比べると皆さんと接する機会は5倍にも10倍にもなっていると思います。しかし、本当にざっくばらんに話せているかと言うと、まだそこまでは出来ていないのかもしれません。これからもっと努力していきます。
<真鍋さんから小野さんへ>
真鍋:男性にとって、ドリームの敷居が低くなればと思います。男性向けの企画をしていただけませんか。
小野:今、積極的に取り組んでいるのが、革で小銭入れや名刺入れを作るレザークラフトです。海外から良い革を仕入れてオリジナルのキットを作っています。手作りの楽しさや価値を感じることに男女差はないので、これからどんどん広げていきたいと思っています。
<渡邊さんから小野さんへ>
渡邊:CSR活動として女性のネットワークを香川県の活性化に活かしてみるのはどうでしょうか。手芸に関係するところを見学するツアーを開催するなどはいかがですか。
小野:毎年、レジ袋を削減した費用で、小豆島にオリーブの苗木植栽の事業を行っています。毎回全国から100家族以上の申し込みがあり、10家族ほどをご招待して、オリーブの実の摘み取りとオリーブを使った料理を楽しんでいただいています。県外の店舗では、香川県の企業であることや香川の良さ、瀬戸内海の素晴らしさをさらにPRしていきたいと思っています。
<渡邊さんから真鍋さんへ>
渡邊:駅周辺に土地があるところには、パーク&ライドをやってもらいたいということと、バスを利用した利便性の向上。また、四国内の私鉄とコラボレーションして、何かできないかとも思うのですが。
真鍋:電車とバスが一体となって、公共交通網をつくっていく必要があると感じています。ICカードのIruCaがいろんなコミュニティーバスで使えるようになっていますのでIruCaを軸に、パーク&ライドやダイヤの見直しなどで交通弱者と言われる方を減らすような取り組みをしたいと思っています。外国人向けに四国内の鉄道乗り放題切符などの企画も始めています。16年の瀬戸内国際芸術祭に合わせて、香川、四国を楽しめるようなプランを作っていきたいですね。
2015年の展望をお聞かせいただけますか?
香川県の成長ポテンシャルはまだまだあります。活かされていない観光資源も多い。行政や企業がそれぞれ単発的に行うのではなく、連携することが大事。地元のお客様に、「少し景気が良くなってきたな」と実感してもらうためにも、何か新しいことをやっていかないとだめかなと。それが香川の活性化につながればと思っています。
小野:辛抱しながらも、ぜひいい年にしたいと思っています。地方の経済がすごく良くなるという展望は残念ながら厳しい。各企業が特色を活かして、頑張っていくしかありません。われわれ小売業は、景気が良くなったからと言っても、努力してお客様に認められないと商品は売れません。ここ数年、積極的に関東エリアに出店していったものですから、これからスクラップ&ビルドをしていこうと思っています。
また、73店舗というスケールを活かして、プライベートブランドの商品を作り、高品質でオンリーワンの付加価値を提供したいと思います。そういったことがお客様に受け入れられれば上向くでしょうし、評価されなければ、やはり厳しい年になる。常に前向きにチャレンジしながら、着実に成長の年にしたいと思っています。
真鍋:辛抱しつつ、飛躍の年にしたいですね。まずは駅ビルのリニューアル。単にビルをきれいにするのではなく、政府も地方創生と言っている中で、新しい地方都市の在り方や個性、そこで暮らす人のライフスタイルなど、公共交通と駅ビルを組み合わせて提案していきたいと思っています。
かつて民事再生をして、そこから苦労しながら再生をしてきました。そこでもう一度、新しく飛躍していくスタートの一年になるんだろうと考えています。
渡邊:辛抱の年と言いましたが、基本的に辛抱して、新しい芽を出させる年ですよね。第二の創業とでも言いましょうか。今やっているビジネスがずっと続くことは、なかなか考えられない。辛抱しながら、伸ばすところは伸ばしながら、第二の創業をしないといけない。それを考える時ではないでしょうか。
お二人のような世代が旗頭になるのでしょう。2015年は、いろんなものの芽が出てくるような年にしたいですね。
◆聞き手:編集長 篠原 正樹
◆写真:朝日新聞 佐久間 泰雄
篠原 正樹
渡邉 智樹 | わたなべ ともき
- 1952年 高松市生まれ
1974年 京都大学経済学部 卒業
株式会社百十四銀行 入行
2004年 取締役東京支店長
2006年 常務取締役経営企画部長
2009年 代表取締役頭取
- 写真
小野 兼資 | おの けんじ
- 1962年 高松市生まれ
1986年 明治大学経営学部 卒業
1989年 小野株式会社 入社
1995年 取締役本部長
2004年 代表取締役社長
- 写真
真鍋 康正 | まなべ やすまさ
- 1976年 高松市生まれ
1999年 一橋大学経済学部 卒業
2009年 高松琴平電気鉄道株式会社 入社
香川日産自動車株式会社 取締役
2010年 高松琴平電気鉄道 取締役
2012年 アイル・パートナーズ株式会社 代表取締役社長
2014年 高松琴平電気鉄道 代表取締役社長
- 写真
株式会社百十四銀行
- 住所
- 香川県高松市亀井町5番地の1
- 代表電話番号
- 087-831-0114
- 設立
- 1878年11月1日
- 社員数
- 1963人(2024年3月31日現在)
- 事業内容
- 銀行業
- 総資産
- 5兆8,058億円
- 総預金
- 4兆7,652億円(譲渡性預金を含む)
- 貸出金
- 3兆4,331億円
- 資本金
- 373億円
- 店舗数
- 133店舗(本支店100、出張所22 他)
店舗外ATMコーナー140カ所 - 地図
- URL
- https://www.114bank.co.jp/
- 確認日
- 2024.08.15
小野株式会社
- 住所
- 高松市塩屋町14−5
- 創業
- 1911年
- 設立
- 1969年
- 資本金
- 3800万円
- 店舗数
- 73店舗 <中四国29(うち香川6)、関西17、関東27>
- 事業内容
- 手芸専門店ドリームのチェーン展開
生地、毛糸、贈答用品等の販売 ほか - 確認日
- 2018.01.04
高松琴平電気鉄道株式会社
- 住所
- 高松市栗林町2−19−20
- 設立
- 1943年
- 資本金
- 2億5000万円
- 関連会社
- ことでんバス株式会社
徳島西部交通株式会社
ことでんサービス株式会社
高松グランドカントリー株式会社
屋島ドライブウエイ株式会社 - 確認日
- 2018.01.04
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