「安価」「安全」「快適」満たし JR四国バス 大競争に挑む

ジェイアール四国バス 代表取締役社長 佐野 正さん

Interview

2012.08.16

香川県と京阪神間は、まだ高速乗合バスが主役だが、東京~大阪、名古屋、仙台便は、低料金の高速ツアーバスが圧勝だ。その高速ツアーバスが4月29日、群馬県の関越道で悲惨な事故を起こした。過当競争が安全を脅かすと、国土交通省の「バス事業のあり方検討会」が法改正に向けて答申を出した矢先だった。

香川県でも7月から琴平バス(株)が琴平から大阪行きをスタートさせ、高速ツアーバスとの競争が始まった。影響はJR四国本体のドル箱マリンライナーにも及びそうだ。JR四国バス社長の佐野正さん(61)は「負けるわけにはいきません」と話す。

佐野さんは、うどん、ホテル、民間鉄道の経営まで手がけた異色の元国鉄マン。熱意と行動力でツアーバスとの競争に挑む。

※高速乗合バス
道路運送法に基づき都市間を結んで運行する。

※高速ツアーバス
旅行業法によって旅行会社が利用者を募集し貸切バスをチャーターして運行する。

厳しさ増す競争

2001年の改正道路運送法の施行で、バスの路線開設が免許制から許可制へ規制緩和されて、都市間の高速バスに参入したツアーバス業者は、夜行便から昼行便へ運行回数を増やしている。

琴平バスの運賃は、琴平、高松から大阪まで片道2900円、日帰り往復は3900円だ。JR四国バスも対抗して、高松から大阪まで便数と席数は限定ながら片道2900円、日帰り往復3900円、10日間有効な往復5300円の切符を発売開始した。

徳島でツアーバスを運行する海部観光(株)の運賃は、徳島から大阪まで片道2500円。JR四国バスは、土日の日帰り往復4800円の新商品投入で対抗している。

ツアーバス業者の前身は、旅行会社が多い。飛行機やホテルをセットにしたパック旅行は繁忙期と閑散期で値段が違う。ツアーバスは、旅行商品と同じで、座席の仕様も運賃もさまざまだ。

海部観光の東京便は、12席の飛行機のファーストクラスのような座席が1万3千円で、満席になったら続行バスが出る。4列席は6千円で、若い客層に評判だという。

JR四国バスも負けてはいない。東京行ドリーム号は2階建バスで、1階は3席限定のプレミアムシート、2階はひとり掛け3列独立シートでゆったり快適だ。首都圏のJR電車が2日間乗り放題の「ドリーム&東京フリーきっぷ」(プラス500円)も利用できて1万500円だ。

同じ土俵 対等に

ツアーバスには、運行ダイヤや運賃など乗合バスに関する道路運送法が適用されなかった。「乗客がいないとバスを出さなくてもよかったんです。でも我々、高速乗合バスは、1カ月前にダイヤも運賃も決めて、空車でも走らないと法令違反になります」

関越道で46人が死傷した原因は、居眠りだった。「事故原因の本質は、過労運転の常態化です。安い運賃のしわ寄せが人件費にいけば、居眠り運転につながります」

国土交通省は7月31日から、高速バスの安全確保のため「新高速乗合バス」制度を始めた。

高速ツアーバスを、高速乗合バスに一本化するほか、別会社へバスの運行を委託する際の条件を厳しくする。高速ツアーバスを企画したり、乗客を募集したりしてきた旅行会社が事業を続ける場合は、来年7月までに乗合バスの事業許可を順次取得させ、安全運行の責任を明確にする。

「ツアーバスと同じ土俵で対等に戦うことになり、安全とサービスを怠った交通機関は淘汰(とうた)されます」

西讃振興へ観音寺エキスプレス

西讃地区のビジネス・観光振興に貢献しようというのが、観音寺エクスプレスだ。観音寺から特急しおかぜで大阪に行くには、岡山で新幹線に乗り換えるが、バスは直通で運賃が半額だ。今年4月から6往復を7往復に増便した。

坂出からは、高松には寄らないで直接高松道を通り明石海峡大橋を渡って神戸・三宮経由で大阪へ行く。運賃は観音寺から大阪まで回数券で片道3600円、1人掛け3列シートで便数も多い。

「嵐」だった分割民営化

旧国鉄の分割民営化は、佐野さんが国鉄に入って14年目、36歳のときだった。「嵐でした」

「新会社は、取締役の多くが40代。優秀で勇気のある若者ほど、将来展望が開けないと転職しました」

六つの地域別の旅客鉄道会社と、一つの貨物鉄道会社などに分けられ、佐野さんはJR四国の設立準備室へ配属された。「岡山出身ですから、多分JR西日本だろうと思っていたら、分割民営の第一号で縁もゆかりもない四国に内示されたんです」

1987年JR四国の運用車両課長になった。瀬戸大橋開業後のマリンライナーの輸送増発に関わった。89年、子会社の四国車両整備に出向。90年、さぬきうどんの製造販売会社 (株)めりけんやを創業した。

「設立準備室にいた時、鉄道だけで経営が成り立たないと考えました。さぬきうどんは四国を代表する食文化です。JRの駅で販売して、観光客を四国へ呼ぼうと38歳のとき手を上げたんです」

車両整備会社に出向中、製麺機メーカー大和製作所社長の藤井薫さんと出会った。同社の製麺機で作るさぬきうどんは美味しかった。「世界に製麺機を売りたい。事業を更に広げたい、無償でノウハウをすべて教えます」。藤井さんの熱意に共感した。

数日後、子どもが通う小学校でPTAのバレーボール大会に出て、アキレス腱を切った。大学時代に選手だったので、体重が20キロも増えているのを加減せずジャンプしたのだ。

鉄道マンから事業家へ

▲東京ドリーム号のプレミアム席。ゆったりスペース、ゴージャスなシートが売りだ=JR四国バス観音寺営業所で

▲東京ドリーム号のプレミアム席。ゆったりスペース、ゴージャスなシートが売りだ=JR四国バス観音寺営業所で

病院のベッドで1カ月悩んだ。当時の子会社出向は片道切符。松下電器産業(当時、現パナソニック)元社長の故・山下俊彦氏の著書「僕でも社長が務まった」を読んで決意した。

うどん事業は、一度JR四国本社で否決されていた。「最初に起案した仲間が諦めきれずに、替わりにやってほしくて私に藤井さんを紹介したんです」。退院してギプスをはめたまま、創業起案書の資料作りのため東京へ行った。「創業は追いかけたい夢があるから出来るんです。頭が良く理詰めで考える人は、リスクが怖くてやれないです」

当時のJR四国幹部は、ギプスをはめて東京へ行く姿を見て「やらせてみよう」と決めたと、佐野さんは後から聞いた。1990年から8年間、「越中富山の薬売りのように、北海道から九州まで売り歩いた」と振り返る。

98年、JR西日本から来た梅原利之さん(現相談役、元会長、元社長)に呼び戻され運輸部長に。2000年自動車事業部長。02年には当時民事再生中だった高松琴平電気鉄道(株)に派遣。04年にJR四国に戻り鉄道事業本部長に。06年全日空ホテルクレメント高松(当時、現JRホテルクレメント高松)の社長。そして10年、JR四国バス社長に就任した。

「さぬきうどんの販売を通じ、多くの素晴らしい社外の人たちと出会えました」

めりけんやの創業で、佐野さんは変わった。規律どおり正確に仕事をこなす有能な鉄道マンから、自分で考え、壁を超えて答えを出す事業家に成長した。

佐野 正 | さの ただし

1951年 2月 岡山県総社市生まれ
1973年 3月 大阪大学工学部 卒業
1973年 4月 日本国有鉄道 入社
1987年 4月 四国旅客鉄道(株)(JR四国) 運輸部 運用車両課長
1997年 6月 (株)めりけんや 代表取締役社長
1998年 6月 JR四国 運輸部長
2000年 6月 JR四国 取締役自動車部長
2002年 8月 高松琴平電気鉄道㈱ 常務取締役 鉄道事業本部長
2004年 6月 JR四国 常務取締役鉄道事業本部長
2006年 6月 (株)ジェイアール四国ホテル開発 代表取締役社長
2010年 6月 ジェイアール四国バス(株) 代表取締役社長
2014年 5月(公財)高松観光コンベンション・ビューロー 理事長
2014年 6月 (株)ジェイアール四国企画 代表取締役社長
2016年 6月 (株)ジェイアール四国企画 顧問
写真
佐野 正 | さの ただし

ジェイアール四国バス株式会社

所在地


高松市浜ノ町8-33
TEL:087-825-1717
設立
2003年7月
資本金
3億7000万円
株主
四国旅客鉄道株式会社(100%出資)
社員数
301人(2012年7月)
売上高
38億円(2012年3月期)
事業内容
一般旅客自動車運送事業
営業キロ
2,290キロ
バス台数
乗合109台、貸切10台
支店等
高松・松山・高知・徳島に支店、
観音寺に営業所
確認日
2018.01.04

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