経営支援はオーダーメードで

中小企業診断士 筒井 恵さん

Interview

2015.01.15

「中小企業の力になりたい」。筒井恵さん(51)は、家業の影響もあってか、幼いころからそんな思いを抱いていた。実家は、建築金物工事業を営んでいた中山ステンレス工業。結婚を前に、夫は同社へ入社。筒井さんは地元スーパーマーケットチェーンに就職し、SEとして働いた。
中小企業診断士の資格取得のために勉強を始めたのは、長女出産を機に退職してから。次女の出産を挟んで、試験に合格。1998年に創業、翌年に法人化した。「当時は診断士の認知度が低く、仕事になりませんでした。女性の診断士も珍しかったですね」

企業にアドバイスし、業績が改善すれば、その中から相談料をもらう。顧客にリスクを負わせない形で、少しずつ仕事を増やしていった。今は、かがわ産業支援財団でも週に一度、相談を受け付けている。

専門分野は流通、物販、サービス業。スーパーマーケットでの経験が生きる。「経営革新をメーンに行っています。対処法はオーダーメード。企業の体質や経営者の人となりで、支援方法がまったく異なります」。状況が厳しい会社の場合、まずは、資金が出ていくのを防ぐ「止血」。そして、そこからどうすれば利益を出せるのかを考える。

コンサルティングにおいて最も難しいのは、経営者の考え方を変えること。「役員報酬を減らすべき」など、言いづらいこともはっきり言わなければならない。「そうしないと利益は出ません。中小企業が黒字経営できるよう、お手伝いできれば」

筒井さんは、診断士としての経験と、経営者の妻としての体験を、一冊の本にまとめた。タイトルは『会社の正しい終わらせ方』。経営者やその家族の一助になればとの思いから執筆を決め、自らのことも赤裸々に書いた。

夫は中山ステンレス工業で技術者として経験を積み、専務、社長と役員になっていた。夫婦それぞれが経営者として忙しく働き、顔を合わせる時間はなくなっていた。夫が資金繰りに苦労していることは分かっていたが、夫婦という立場では自分が何か言っても素直に受け入れてくれないだろうと、コンサルティングは他社に任せていた。

2012年の冬のある朝、リビングに夫がうずくまっていた。その様子にただならぬものを感じ、中山ステンレス工業の日繰り表を確認すると、自分たちだけではどうしようもないところまできていた。そして、倒産を決めた。

「企業にとって、経営の継続が第一です。けれど、取引先や従業員に迷惑はかけられない。会社のお葬式をきちんとすれば、また新たなスタートが切れます」。取引状況を整理する、従業員の働き口を探す、といった手順を踏めば、その後、いくらでもやり直せる。筒井さんは「とにかく逃げてはだめ」と繰り返す。

「娘も父親のことを心配していました。ひょっとすると命の危険があるかもしれないと」。著書の中では、次女が書いた手紙を紹介しており、手紙の最後は、こう締めくくられている。『一度傾きかけた我が家ですが、私たち家族はいま、幸せです』
世間の変化のスピードに対応しながら利益を上げていくことは、簡単ではない。筒井さんは、今後ますますM&Aが増えると考えている。そんな中で、企業同士のマッチングや事業継承の新しい形をつくることが、これから取り組んでみたいことだ。

「私が経営者の妻だったこともあり、女性経営者や経営者の奥様と分かり合える部分が多い。よく『女子会』に誘っていただきます」。仕事や夫のことを話す筒井さんは、声も表情も底抜けに明るい。厳しい状況を乗り越えた人にしか、たどり着けない場所があるのだろう。

筒井 恵 | つつい めぐみ

1963年2月 香川県高松市生まれ
1986年4月 株式会社マルナカ 入社(本部電算室勤務)
1999年7月 有限会社リンク・サポート 設立
写真
筒井 恵 | つつい めぐみ

有限会社リンク・サポート

所在地
香川県高松市新田町甲1486-1
TEL
087-841-7139
事業の概要
経営コンサルタント
資本金
1000万円
確認日
2018.01.04

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