農家を「農業経営者」に

食の劇場 農業プロデューサー 岡本裕介さん

Interview

2019.11.07

高松市内の蜂場で生産者と

高松市内の蜂場で生産者と

「畑で新鮮な野菜や果物を見れば、買い物するときにも新鮮なものが分かる。値段よりも状態で選んで買うようになってくれたらうれしいですね」

岡本裕介さん(38)は、2018年4月に「食の劇場」を立ち上げた。事業は財務分析や営農計画作成など農家の経営支援をメインに、農産物の販売、生産者と消費者が交流するイベントの開催を手掛ける。生産者と消費者をつなぎ、ステージの役割となって、食材を輝かせたいという。食卓を劇場のように楽しいものにしたいとの思いも、屋号に込めた。
さぬき市津田のふるさと海岸で開く「讃岐朝市」は、生産者に声をかけ銀行員時代に始めた

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岡山市出身で香川大学に進学。就職活動時は氷河期終盤で、安定した仕事を求めて農林漁業金融公庫(当時)に就職。農家や国産原料で加工食品を製造する企業への融資を担当した。初めて配属されたのは、福岡支店。米と麦の違いや、シソと大葉が同じものであることも知らないところからスタートし「たくさん恥をかきました」と振り返る。2週間の農業研修で、洋野菜とハーブを生産する農園を訪れた。農園の社長が「農家が楽しく仕事をしていないと野菜も良いパフォーマンスができないから、どんな時も笑って仕事をしろ」と言っていたことが、印象に残った。農業は儲からないといわれている中、自立した経営をしている農園だった。

2008年、高松支店に赴任。11年3月の東日本大震災では職場のビルも揺れた。大きな地震だったため、テレビで被害状況を確認した。「春野菜の準備をしている畑やビニールハウスが次々と津波に飲み込まれて、見ているのがつらかった」。農家の人たちのことを思うと、涙が止まらなかった。「大変なことが起きたとき、転勤族の自分は継続的な支援ができない。そう思うと寂しかったですね」。妻の地元が香川だったこともあり、退職してとどまることを決めた。

転職した百十四銀行でも、農業者が生産から加工・販売まで手掛ける6次産業化や農商工連携など農家の経営支援に携わった。自分も農家の人たちもお互いに納得のいくところまで、組織ではなく自分の判断基準で仕事がしたいと、昨年独立した。
昨年のミカン狩りイベント

昨年のミカン狩りイベント

まずは、利益拡大に貢献したいという。「農家は良い農作物を育てたい気持ちが強く、コストパフォーマンスをあまり考えずに生産していることがあります。農家から農業経営者になってほしい」

アドバイスする農業者には生産にかかる原価を理解してもらい、赤字にならないようきちんと価格交渉できる経営者を目指してもらう。決算や人事労務、企業法務などを学ぶサポートをし、販売価格や数量などの売り方を提案。販路開拓など岡本さんも実際に販売を手伝い、売上に貢献する。「僕が必要とされなくなることが、仕事のゴールですね」。経営におけるプロデューサ一のような役割を果たすため、親しい経営者のすすめもあり肩書は「農業プロデューサ一」に。

「農家に生まれたわけじゃないのに、自分はこれだけ農業に魅了された。だから、現場を見てもらえれば必ず伝わるという確信があります」。親子などを対象に畑で農業者の仕事を体験し、野菜や果物を味わってもらうイベントを定期的に開催している。

鎌田 佳子

岡本 裕介|おかもと ゆうすけ

略歴
1981年 岡山県岡山市生まれ
1999年 岡山県立岡山芳泉高校 卒業
2003年 香川大学 卒業
     農林漁業金融公庫(当時) 入庫
2012年 百十四銀行 入行
2018年 食の劇場 立ち上げ

食の劇場

設立
2018年
事業内容
農家の経営支援、商品開発、イベント開催など
URL
https://www.facebook.com/shoku.theater/
確認日
2019.11.02

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