プラス思考で 電力変革時代に挑む

四国電力 社長 長井 啓介さん

Interview

2019.10.17

四国電力などがつくる「あぐりぼん株式会社」のイチゴのビニールハウスでスタッフのみなさんと。  社名は「農業(アグリカルチャー)」と贈り手と受け手を結ぶ「リボン」を合成。  農業で地域を「再生(リボーン)」したいという思いも込められている=木田郡三木町大字井上

四国電力などがつくる「あぐりぼん株式会社」のイチゴのビニールハウスでスタッフのみなさんと。

社名は「農業(アグリカルチャー)」と贈り手と受け手を結ぶ「リボン」を合成。

農業で地域を「再生(リボーン)」したいという思いも込められている=木田郡三木町大字井上

次なる成長エンジン創出へ

栽培面積6000㎡。三木町にある広大なビニールハウスで、酸味の利いた深い味わいが特徴のイチゴ「女峰」が育てられている。手がけるのは四国電力だ。

昨年10月、地元生産者や流通業者、東京の老舗高級果実店・銀座千疋屋と連携して立ち上げた「あぐりぼん株式会社」が生産を担う。「農業を新たな事業領域と位置づけ、地元の人たちと一緒に美味しいイチゴをつくっていきたい」。来月に予定されている初めての出荷を前に、四国電力社長・長井啓介さん(62)は順調に育つ苗をうれしそうに見つめる。「収益だけではなく、地域活性化にもつながる新事業。取り組む意義は大きいと思っています」

電力会社は今、「大変革期」の真っ只中にある。2016年の電力小売り全面自由化、さらに来年4月には、電気の発電・小売業者が公平に競争できるよう、電力会社が持つ送配電事業を別会社にする「法的分離」が待ち構える。「これまで四国のお客さまは、四国電力から電気を買うのが当たり前だった。これからは四国電力の魅力を強化し、お客さまに選択していただく時代です」

全面自由化から3年。エリア内の販売電力量は約1割ダウンした。6月に社長になった長井さんが掲げる目標は、本業の「電気事業の強化」に加え、電気事業以外の「次なる成長エンジンの創出」だ。

暮らしにおけるあらゆる困りごとを解決する生活サポート事業「ベンリーよんでん」、お遍路と観光をモチーフにしたwebマンガの配信……ユニークな試みが次々と進行している。イチゴ栽培同様、“電力会社とは縁がなさそう”と思える事業もあるが、「グループ会社も含め私たちが培ってきた技術やノウハウと、異分野が融合することで、新たな発想や価値観の多様化が生まれる。積極果敢な攻めで、社員の活力や充実感のアップに繋がればと期待しています」。そして長井さんは「何より、触れ合う機会のなかった人たちと一緒に新しいことにチャレンジするって、とても面白いと思いませんか」と笑顔で続ける。

“四国大好き人間”

長井さんは総合企画室長時代、海外への事業展開を牽引。  30万枚以上のパネルが広がるチリ・ウアタコンド地区の  太陽光発電所は先月運用が始まった

長井さんは総合企画室長時代、海外への事業展開を牽引。

30万枚以上のパネルが広がるチリ・ウアタコンド地区の

太陽光発電所は先月運用が始まった

出身は高松市。京都大学で大学院まで進んだ後は「普通に都会の企業に就職するものだと思っていました」。しかし、卒業前にぶらりと旅したヨーロッパで、「頭を空っぽにして考えてみたんです。満員電車に揺られ、組織の一員として過ごす人生でいいのかと」。四国電力だと豊かな自然に満ちたふるさとで暮らせるうえ、「発電プラント建設など大きな仕事に携われる。自分の足跡を残せるのではと思えたんです」。1981年に四国電力に入社。だが、「最初の配属先は3交替制の火力発電所の運転員。深夜や早朝の勤務があるうえ、特に設備がとても古くて『なんという会社に入ったんだ』と衝撃を受けました」と苦笑する。

自称“四国大好き人間”。三豊市の父母ヶ浜が人気だと聞けばすぐに飛んでいき、四国八十八ヶ所は「順打ち」「逆打ち」合わせて3回まわった。「お遍路さんは車ですれ違う時、双方がすぐにバックし始める。お互いに道を譲る気満々なんですよね。とても心地いい世界です」。社員も瀬戸内国際芸術祭へのボランティア参加に積極的だ。「4県それぞれに良さがあり、『いいところに住んでいる』と常に感じています。いいところなので大事にしたいし、魅力をもっと発信したい」と長井さんは四国愛を熱く語る。

悩まず、明るく、前向きに

千葉への応援派遣の様子。  発電機車で病院に応急送電する四国電力社員。

千葉への応援派遣の様子。

発電機車で病院に応急送電する四国電力社員。

9月、台風15号が関東地方を直撃。千葉県では大規模停電が長期化し、人々の暮らしは大混乱に陥った。「不便な生活を強いられている現地に少しでも早く電気を届けたい」。長井さんは被災当日に東京電力への応援派遣を決め、発電機車や高所作業車など120台、15日間でグループ総勢370人を動員。病院や老人ホームへの応急送電、倒木の伐採や配電設備の復旧にあたった。「応急送電した病院からは『いち早く遠方から駆けつけ、患者へ救援の手を差し伸べてくれました』としたためた感謝状をいただきました」

長井さんは「報道でお客さまの悲痛な声に接し、『電線の先には尊い暮らしがある』ということを改めて痛感した」と台風被害を振り返り、こう続ける。「電気事業を取り巻く環境は大きく変わりつつある。でも、『安定的に電力を届ける』という私たちの最大の使命は、何も変わることはありません」

使命を果たすため、社員に3つのお願いがある。「自分の意見をどんどんぶつけてしっかり話し合い、納得ずくで仕事をする」。「ワークライフバランスが大切。仕事も家庭も頑張る」。そして、「あまり悩まず、明るく前向きに仕事をする」

長井さん自身、明るく朗らかで好奇心旺盛な性格の持ち主だ。「ものごとはプラスで見るか、マイナスで見るか、見方で全然違ってきます」。電力激動期の中で受け取った舵取りのバトン。最初は「私で大丈夫か」とも思ったが、「こんな時だからこそ、逆に面白そうだ」と受け止めた。

計画する時はリスクを考えて心配することも必要。でも一旦決めたら、柔軟性をもってプラス思考で突き進む。時には頭を空っぽにしてリフレッシュしながら、失敗を恐れずチャレンジし、会社も四国も元気にしたいですね」
「『安定的に電力を届ける』。私たちの使命は変わらない」  (高松市丸の内の四国電力本店)

「『安定的に電力を届ける』。私たちの使命は変わらない」

(高松市丸の内の四国電力本店)

篠原 正樹

長井 啓介|ながい けいすけ

略歴
1957年 高松市出身
1975年 高松高校 卒業
1979年 京都大学工学部 卒業
1981年 京都大学大学院工学研究科修士課程 修了
     四国電力 入社
2011年 執行役員電力輸送本部系統運用部長
2013年 常務執行役員総合企画室経営企画部長
2015年 常務取締役総合企画室長
2017年 取締役副社長
2019年 取締役社長

四国電力株式会社

住所
香川県高松市丸の内2-5
代表電話番号
087-821-5061
社員数
4489人
事業内容
総合エネルギー分野(電気事業、海外事業、LNG販売事業他)
情報通信分野(情報システム事業、通信サービス事業他)
ビジネス・生活サポート分野(介護事業、商事・不動産事業他)
設立
1951年5月1日
資本金
1455億円
地図
URL
http://www.yonden.co.jp/
確認日
2019.10.09

記事一覧

おすすめ記事

メールマガジン登録
メールマガジン登録
ビジネス香川Facebookページ