「再稼働に向け一歩前に進んだことは間違いありませんが、引き続き安全確保を最優先に対応していきます」
一方、今年4月には電力小売りの全面自由化がスタートし、電力業界は本格的な競争の時代に突入していく。
次期社長を打診された時は今後待ち受ける厳しさを思い、悩みに悩んだ。「自分に務まるだろうか」とも思った。だが社内には知恵や力を貸してくれる大勢の仲間がいると前向きに考え、覚悟を決めた。
昨年6月、四国電力の社長になった佐伯勇人さん(61)は、信条とする「攻め」と「スピード」で電力激動の時代に立ち向かっていく。
安全対策に終わりはない
事故後、全国の原発施設は安全性を確認するため次々と運転を見合わせた。伊方発電所にある3基も順次ストップし、12年1月以降は全て停止している。
震災前、四国電力が作る電気の約4割は伊方発電所が担っていた。12年から3期連続での赤字決算。ダメージは大きかった。「コストダウンや効率化も図りましたが、電気料金を1割ほど上げざるを得ませんでした。経営的に非常に厳しく、お客様には大変申し訳ないことをしました」
新社長としての最初の目標に伊方発電所3号機の再稼働を挙げる。昨年10月、再稼働の地元同意を得た後、佐伯さんは発電所の周辺30キロ圏にある愛媛県内の6つの市町を訪ねた。市長、町長、議会関係者らは異口同音にこう言った。「社長、事情は分かった。私達や住民にもいろいろな考えがあるが、最終的には了承した。ただそれは、安全が大前提だ」
安全確保に向け様々な取り組みを進めた。3号機は、全国で3例目となる再稼働に向けた国の安全審査をパスしたが、四国電力では独自の対策も施した。耐震設計時の基準になる岩盤の振動「基準地震動」を650ガル(ガル:地震の揺れの強さを示す加速度の単位)に引き上げたほか、安全上重要な機能を持つ設備については、1000ガルを上回る揺れにも耐えられるようにした。過去に伊方発電所で観測した最大の基準地震動は、2001年3月に起きた芸予地震時の約60ガルだ。
また、福島の事故は、津波によって原発を冷やすための電源を失ったため被害が拡大した。「電源をいかに確保するかということも極めて重要です」。想定する津波の高さを4メートルから8メートルに引き上げたのに加え、非常用電源を増設したり、高台にある変電所から配電線を敷いたりするなど、万が一、主電源が失われた場合でも速やかに対処出来るよう、電源の多重化、多様化も徹底した。
「安全対策に終わりはありません。想定される事態には可能性がどんなに低くても、最大限対応していかなければならない。それが福島の事故から学んだ一番の教訓です」
付加価値の高いサービスを
経済産業省によるとこれまでに、石油会社やガス会社など全国で約200の業者が電力小売りの登録申請をしている。ガソリンとのセット割引、電車定期券や携帯電話料金とのセットなど、あの手この手での顧客争奪戦はすでに熱を帯びている。四国電力でも、インターネットと連動して電気の最適な使い方をサポートする会員制の新サービス「よんでんコンシェルジュ」などを展開している。「自由化ではサービス力も試されます。まさに知恵の勝負。お客様のニーズに合った付加価値の高いサービスを提供していかなければなりません」
さらに、佐伯さんが訴える最大の武器は「よんでんブランド」だ。「私達にはこの地域でずっと電力を供給してきたという自負があります。今後も四国をホームグラウンドに、使命感や責任感をしっかり受け継いでいきたいと思っています」
自由化になることで電気料金は下がるのだろうか。
競争すると下がるというイメージがありますが、様々な要素があるので一概には言えません。欧米では自由化で逆に値段が上がったという例もあります」。しかし、こう続ける。「お客様が最も重視するのはやはり料金水準でしょう。原子力と石炭火力の構成比が高い我が社には、他社と渡り合えるだけの競争力がある。これを最大限生かして守勢に回ることなく、攻めていきたいと考えています」
実りある1年に
電磁波が飛ぶ。迷惑施設だ。地元住民から猛反発を受け、交渉は難航していた。タイムリミットも迫っていた。「用地が決まらないと大変なことになります。非常に危なっかしい状況でした」。部下達と共に連日連夜、粘り強く議論や交渉を続けた。その中で改めて、この会社が社員一人一人の地道な努力に支えられていることを強く感じた。「みんなの努力が報われ、用地を確保出来た時は本当にうれしかった。当時の現場経験が今の私の礎となっていますね」
社長就任前は、「この時期に社長になる人はとても大変だろうと他人事のように思っていました」と目を細める。しかし今では、「決して一人で戦っていくわけじゃない。目の前には大きな山が立ちはだかっているが、ちゃんと姿、形が見えている分、むしろ戦いやすい」と思えるようになってきた。
毎年、年始の書初めで1年の目標を漢字一文字で記すことにしている。今年は「実」と書いた。伊方3号機再稼働の実現と、電力自由化など新たな時代への挑戦を実行、実践していくという思いを込めた。
「まずはやってみる。常にスピード感を持ち、新たな時代に適応出来るしなやかで強い会社、稼げる企業集団を築いていきたいと思います。電力変革の年を『実』りある1年にしたいですね」
佐伯 勇人 | さえき はやと
- 1954年 愛媛県東温市生まれ
1977年 京都大学法学部 卒業
四国電力 入社
2006年 広報部長
2009年 総合企画室事業企画部長
2011年 常務執行役員 総合企画室経営企画部長
2013年 常務取締役
2015年 取締役社長
- 写真
四国電力株式会社
- 住所
- 香川県高松市丸の内2-5
- 代表電話番号
- 087-821-5061
- 社員数
- 4489人
- 事業内容
- 総合エネルギー分野(電気事業、海外事業、LNG販売事業他)
情報通信分野(情報システム事業、通信サービス事業他)
ビジネス・生活サポート分野(介護事業、商事・不動産事業他) - 設立
- 1951年5月1日
- 資本金
- 1455億円
- 地図
- URL
- http://www.yonden.co.jp/
- 確認日
- 2019.10.09
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