働き手が仕事を選ぶ時代

日本銀行高松支店長 菱川 功

column

2016.04.07

春を迎え、今年も各地で企業説明会が始まった。就活生の方達は大事な季節を迎えた緊張感で一杯と拝察するが、受け入れ側の企業関係者におかれても、人材確保に苦労した前年の経験を思い出しつつ、今年こそはと身構えている方々が多いかもしれない。

本来、雇用情勢が極めて良好な状況というのは、遅かれ早かれ消費者の心理・所得の両面にプラス要因として働くため、地元景気にとっても全体としてみればポジティブな側面が大きいとは言え、人手不足は県内企業にとっては頭の痛い問題だろう。

以前、本コラムで香川の採用事情は大きな曲がり角を迎えている感があると書いたが、足元の労働市場を仔細にみると、欠員率と失業率の比較(前者の方が明らかに高いと推測される)やミスマッチの状況などを勘案すれば、事実上、「完全雇用」に近い状態にある可能性が高い。

これは、過去2年以上にわたる緩やかな景気回復の帰結という面は勿論あろうが、それだけでは説明がつかない感がある。やはり少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少の影響も大きいとみるべきだろう。県内の人口構造から来ている部分が大きいだけに、人手不足は当分続く可能性が高そうだ。

長い目でみると、香川においては働き手が仕事を「選ぶ」時代を迎えたのではないかと考えている。

言い方を換えると、自社の商品・サービス等に対する顧客の需要が相応にある企業であっても、働き手に「選ばれない」状態が続くと、中長期的には淘汰されかねないということだ。

では、どんな企業が選ばれるだろうかと考えてみると、やはり競争力の源泉たる「人」と「モノ」への投資を続けている先に限られると考えるのが自然だろう。つまり、バランスシートの健全性などの伝統的な物差しだけでなく、将来に向けた投資を着実に行っていく力とそれをきちんとアピールする力も中長期的な生き残りを左右するポイントになる時代に入りつつあるのかも知れない。

足元では、政策面でも民間による設備・研究開発投資、人的資源への投資を後押しする様々な施策が設けられている。地元企業による人とモノへの投資は、とりもなおさず、地元経済の活性化にもつながる活動であることを考えると、こうした制度も適宜活用しつつ、前向きな取り組みがさらに拡大することを期待したい。

菱川 功|ひしかわ いさお

略歴
1966年1月  兵庫県生まれ
1988年3月  国際基督教大学教養学部 卒業
1988年4月  日本銀行 入行
1999年12月 金融市場局調査役
2004年7月  ニューヨーク事務所
2007年7月  金融機構局企画役
2009年7月  大阪支店営業課長
2011年7月  国際局総務課長
2013年6月  国際通貨基金へ出向
2015年6月  高松支店長
写真
菱川 功|ひしかわ いさお

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