1回目の閉幕直後、10年の11月、北川フラム総合ディレクターとともに会場となった島々を回りました。お礼と芸術祭に関する率直なご意見を伺うためです。
岡山市の犬島を訪問した時、80歳のおばあちゃんが「わたしゃ犬島でよかったよ。男木島へ初めて行ったけど、あそこ坂ばっかり、男木の人は大変だねえ」とおっしゃいました。狭い海域で島はどこも同じように思っていましたが、平坦な犬島と急峻な男木島ではその暮らしぶりが根本的に異なることを改めて教えられました。
高松市の大島、ハンセン病療養所「大島青松園」の島では、入所者のお一方が静かに話されたことが今も心から離れません。「私らには家族がいない。芸術祭で親子連れがたくさん大島に来てくれた。家族ってこういうものなのか、親子ってこういう会話をするのか、そういう事が分かってね、それが嬉しかった」。深く重い言葉でした。
また、会期後半の9月下旬、男木島で火事がありました。瀬戸の夜空が朱に染まり、一人暮らしのご老人が亡くなられました。その方は、港近くで小さな鉄工所を営み、ご家族が高松市内へ越されても島に残られていたのです。気さくなおじいちゃんでアーティストたちからも慕われていました。過疎高齢の島での火災はとても怖い、島の抱える現実を思い知らされた出来事でした。
芸術祭の目指すところは、「おじいちゃん、おばあちゃんの笑顔」です。笑顔の絶えない持続可能な地域を再構築していくことです。国内外のたくさんの皆さんにお越しいただき、瀬戸内の自然や、島々の伝統や暮らしぶりにふれ、地域や地元の人々と緩やかな絆を結ぶことからそれは始まります。いよいよ第3回の芸術祭の開幕、どうぞ皆さんもご参加いただき、絆の網目となってください。
追伸。大島では、13年に歴史の伝承や有人島としての存続などを目的に「大島の在り方を考える会」が立ち上がり、14年11月には島の振興方策がとりまとめられました。そして男木島では、芸術祭をきっかけに3世帯が帰島し、14年春、男木小・中学校が再開しました。おじいちゃんの鉄工所のすぐ西隣に子供たちの学び舎があります。
香川県教育委員会 教育長 工代 祐司
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