高松の長い商店街の南端、田町商店街を抜けた沿道に店舗兼住宅が連坦している。その一軒、日よけには「家具卸○○」と擦れた文字が残っている。昨年6月、そこに八百屋がオープンした。裸電球、木箱やコンテナに季節の野菜や柑橘類が並べられる。店主はいつもツナギ姿のN君。懐かしい柔らかい店舗空間も彼の手作りだ。「農家さんと街場を結び付けたい」と毎日県内各地から野菜を集めてくる。店主との野菜談義が楽しく、地産地消の実践、お金の地域循環の実感がうれしい。
昨年7月、自宅近くにゲストハウスができた。簡易宿泊所の一形態。ここは昔、金庫屋さんだった。改装して1階はカフェ、2階は宿泊エリア。カフェは落ち着いた雰囲気で、アルコールも楽しめる。3月の瀬戸芸期間中は見物だった。アメリカ、フランス、ベルギー、オーストラリア、ノルウェー、台湾、韓国、中国・・・、様々な国の若者が、80平米程の空間に違和感なく集っている。花園町とは思えない異空間の出現。ゲストハウスを開いた大阪出身のKさんは言う、「地域と海外を直接結びつけたい。高松は外国人を呼び込むポテンシャルを持っている」と。
これまた昨年2月、4階建ての賃貸ビルの3階に古書店がオープンした。2階には香川の伝統工芸品を新しい感性で全国発信しているデザイナーTさんのオフィスがある。3階を地域の人たちの交流の場、ラウンジ兼古書コーナーとして開放した。ディレクションはH君。彼は「古書店は地域の情報発信の拠点となりえる」と胸を張る。確かに古書店ファンというのは不思議なもので、この小さな古書コーナーを目指して全国から人が訪れる。
エリアリノベーションという言葉がある。変哲もない街の一角に何人かのクリエイティブな人物が登場し、エッジの立ったビジネスの実践が始まる。それぞれの点が互いに共鳴し合い、それがやがて面となり地域の風景に変化が起こる。我が家のベランダからの眺めの中に、新しい感覚の人々が集い、新たな経済循環のネットワークが結ばれていく。まだ再生の物語は始まったばかりだ。でも、少なくとも花園町界隈は楽しくなってきた。近所のオジサンはウキウキしている。
香川県教育委員会 教育長 工代 祐司
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