
書評を読むことの第一の効用は、最近の話題の本を知り、その内容を凡そ把握できることだ。効率的に読書の手間を省ける。しかし、優れた書き手による書評には魔力がある。その書物の魅力に誘い込まれ、結局、本屋に駆け込むことになる。
一方、本の著者にとってみれば、渾身を込めて書き上げた自身の作品が、各界の読書の達人から選択、評論されることは、大きな励みになろう。書評、書評家の役割は重要だと思う。
思い出深い書評を一つ。朝日新聞(2005.10.30)掲載。「讃岐漆芸‐工芸王国の系譜」(住谷晃一郎著、河出書房新社)。評者は美術史家の山下裕二氏。著者は当時高松市美術館の学芸員であった住谷さん。「第一次資料を巧みに引用しながら語り、讃岐漆芸という縦糸を軸に、さながら大河のごとく物語を紡いでいく」「…これぞ、地元に密着した学芸員の仕事。脱帽」。地元で地道に研究を続けた住谷さんの業績に対するリスペクトあふれる書評であった。同じ地方公務員として、我が事のように嬉しかった。
昨年も嬉しい書評が読売新聞(6.12)に掲載された。「東アジア国際通貨と中世日本 ‐宋銭と為替からみた経済史」(井上正夫著、名古屋大学出版会)。評者は経済学者の牧野邦昭氏。著者の井上さんは元県庁職員、現松山大学教授。彼とは二度同じ職場で仕事をした。「一生に一冊本を書くことが目標です。」という彼の言葉が印象に残っている。この著作で彼は、今年度の毎日新聞社等主催のアジア・太平洋賞の特別賞を受賞した。
時代の変遷とともに多くの書籍が世に問われ、その中で書評家たちの共感を得た書物が鮮やかに提示される。私は折にふれスクラップノートを読み返す。その時々の私自身の興味や関心、心模様がその中に刻まれている。
今年はどんな書評に出会えるか楽しみだ。
香川県教育委員会 教育長 工代 祐司
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