我が良き友よ

香川県教育委員会 教育長 工代 祐司

column

2021.02.04

昨年の11月から下駄での通勤を始めた。下駄といっても日常使いができるようアレンジされていてそう目立たない。きっかけは歯医者さん。診療台に座ろうとする私の所作で気づかれたのか、先生が「あなた腰が悪いですね」と言われた。御明察だった。先生も昔、腰でかなりご苦労されたが、下駄を履くようになって腰痛から解放されたとのことだった。

下駄が日常から消えたのはいつごろだったか。「下駄を鳴らして奴がくる 腰に手ぬぐいぶら下げて…」。かまやつひろしのヒット曲「我が良き友よ」(吉田拓郎 作詞作曲)の冒頭だ。1975年(昭和50年)当時、この歌詞に誰も違和感は抱かなかった。結構、身近な所で下駄履きの人を見かけたような気がする。 

早速、先生に紹介された下駄屋さんを探した。御夫婦で営まれている三代続く老舗は、なんと通勤路を一本横道に入った路地沿いにあった。会津桐の本体部分は志度の下駄職人さんが削るが、塗り、表装など全国5、6地域の職人さんの手を通して一足が完成する。最後の仕上げは御主人が依頼人の足に合わせて鼻緒を装着する。それは見事な熟練の技であった。

ようし折角なので通勤に履こう。正直、若干の勇気がいった。当初、鼻緒で指がかなり痛い。続くかなあ。しかし2、3週間で痛みは消えていく。下駄はまず踵から着地させるので、必然、姿勢が良くなる。背筋が鍛えられる。足指を踏ん張るので足先全体が活性化する。靴と比べ活動する筋肉がかなり異なる。1月ほど経つと腰から一歩が出るという感覚になる。「腰に良い」は確かに頷ける。

コロナ禍が続き、閉塞感が漂っている中で、ちょっとした会話や出会いがとても新鮮でうれしい。お気遣いいただいた歯科クリニックの先生や、履きやすい下駄の普及に頑張っておられる御夫婦との出会い。その御縁を介して、何より「歩く」という営みの重要性に気付かせてくれたことがありがたかった。今は健康を含め私たちの日常生活の基本的な部分を見つめ直すいい時期なのかもわからない。

香川県教育委員会 教育長 工代 祐司

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