
著者は惑星科学者、タイトルの『地球に月が2つあったころ』は、著者が2011年に共同研究者とともにネイチャー誌で発表した説から来ています。惑星科学者は物語の商人だとも言い、たとえば「頭上に二つの月がある光景を想像してほしい。その間隔は両手を広げたくらいだ。見かけの大きさは、大きい方の月が手のひらくらい、小さい方が握りこぶしくらいで、岩塊や小天体が浮かぶリングを通る軌道上にある。自転する地球の地平線から、一方の月が昇り、やがてもう一方の月が昇る。まるで動物の母子のように」という所でも分かるように、無味乾燥な科学書ではなく文学のテイストが感じられます。
門外漢の私などには知らないことばかりで、地球上には年間2万トンの宇宙由来の堆積物が降って来ると言うし、火星にはタルシス山地という太陽系最大の火山群があり、マリネリス峡谷というこれもまた太陽系最大の峡谷があると言います。知らなかったことを知るのは楽しいし、これも読書の醍醐味の一つでしょうか。
「彗星が地球に衝突するとなれば、地球はたちまち粉々になるか、惑星系の外に運ばれるだろう。……ヨーロッパの列強間の争いなど一瞬のうちに解決するはずだ」というベンジャミン・フランクリンの言葉を、著者は紹介しています。現在ならコロナのことも付け加えられそうです。ちなみにフランクリンは気象学者でもあったようです。
山下 郁夫
宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん
- 坂出市出身。約40年書籍の販売に携わってきた、
宮脇書店グループの中で誰よりも本を知るカリスマ店長が
珠玉の一冊をご紹介します。 - 写真
宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん
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