原因は温暖化だけではない瀬戸内海の水産資源、どんな課題がある?

ビジネス香川編集室

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2024.07.18

キレイになりすぎた(?)瀬戸内海

日本の漁獲量が減っている。「令和5年漁業・養殖業生産統計」によると2014年の生産量約476万6000トンが、2023年は約372万4000トン。原因の一つとして温暖化による水温の上昇が取りざたされている。ただ水温以外にも「瀬戸内海のような閉鎖性水域と外海の違い、沿岸の開発のあり方、水産資源の管理方法など、地域それぞれの要因もあり、そこに世界的な傾向である温暖化が加わり水産資源が変化している」と、香川出身で北海道大学水産科学研究院の笠井亮秀教授はいう。

瀬戸内海の課題の一つは「栄養塩類の減少」。栄養塩類は植物の成長に必要な窒素やリンなどのことで、これらが少なくなって「貧栄養化」が進むと植物プランクトンが減り、それを捕食する動物プランクトンや小魚、さらに生態系上位の魚にも影響が出る。養殖ノリの色落ちは、窒素などの不足による色素含有量の低下が原因といわれている。

高度経済成長の時代、工場や家庭からの排水で水質汚濁が進み瀬戸内海は「瀕死の海」といわれ、富栄養化が原因で発生する赤潮も環境問題の一つになった。そこで、排水の規制、生活排水対策などを行った結果、全体的に水質は改善され赤潮の発生件数も減少した。一方で、栄養塩類の減少につながったともいわれている。

香川の漁業の特徴は

2015年に環境省は規制してキレイにするだけではなく多様性をもつ“豊かな海”を目指す概念を取り入れた。その後、「瀬戸内海環境保全特別措置法」を2021年に改正し、特定の海域で栄養塩類濃度を増加させる管理を可能にする制度を創設、海域ごとの“実情に応じた”対策を行えるようにうなった。これを受け、香川県は2024年3月に「香川県栄養塩類管理計画」を策定、栄養塩類の排出量をコントロールできる県内5つの下水処理場が、冬の時期だけ栄養塩類を計画的に海に供給する季節別運転管理に取り組む。同時に、定期的に水質をモニタリングして周辺環境への影響の把握や栄養塩類管理の効果検証も行う。漁業関係者や周辺市町とも連携を取りながら、生物の多様性と水産資源の持続的な確保を目指す。
香川県の漁業は様々な魚種を獲る漁船漁業と、魚貝藻類を養殖する養殖業が両立する「多品種」が特徴。四季折々で様々な魚が獲れ、ハマチからカキまで養殖の種類も多い。そんな“豊かな”海だからこそ、繊細な管理が必要になる。

今、海で何が起こっているかを知る

全国的に水産資源の漁獲量は減り、香川県だけ見ても減少している。しかし、気候変動の影響のほか、資源管理や種苗放流などの取り組みにより魚種によっては増加傾向のものもある。県水産課によると、増えているのはマダイ、サワラ、キジハタなど(グラフ参照)。

水産資源の変化は温暖化以外にどんな要因があるか、変化が今後も続くのか一時的なものかなど、明らかになっていないことが多い。「“魚が獲れないのは温暖化のせい”で済ませるのではなく、本当はどんな状況でその原因は何か、今まで大量消費してきた魚をこのまま食べ続けるシステムでいいのか、地元の海はどんな課題があるのか、生息海域が変わって地元で新たに獲れるようになった魚種をどう活かすか……。水産資源の変化をきっかけに、一歩立ち止まって様々なことを考えてほしい」と笠井教授はいう。

WSワークショップ

●瀬戸内海の環境や水産資源の変化について、知っていることは何ですか。

●私たちの食生活や社会生活の中で、水産資源の変化に関係すると思うことはどんなことですか。

意見や考えたことはこちらへ

【取材協力:北海道大学水産科学研究院教授・笠井亮秀さん、県環境管理課、県水産課】

北海道大学水産科学研究院 笠井亮秀教授

略歴
香川大学附属坂出中学校・丸亀高校出身。子どものころ瀬戸内海の赤潮発生のニュースを見て衝撃を受けたことが、この分野を志すきっかけ。研究は海洋環境と海洋生物の相互作用、環境DNAを用いた生物多様性など。環境DNA学会副会長、瀬戸内海研究会議企画委員なども務める。
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北海道大学水産科学研究院 笠井亮秀教授

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