重要なのは「バランス」が取れていること “豊かな海”とはどんな海 ?

ビジネス香川編集室

Special

2022.07.21


瀬戸内海にまつわる話題

●香川を代表する味覚「イイダコ」や「マダコ」、瀬戸内でおなじみの小魚類などの漁獲量が減っている。
 タコ類の漁獲量 2008年 2,858トン→2020年 620トン(農林水産省:漁業・養殖業生産統計)
●漁業や私たちの健康にも影響を与える海ごみが大量にある。
 海底堆積ごみ 約325トン(令和2年度香川県調査)
●埋め立てなどにより、潮流をやわらげ産卵・稚魚生育の場としても重要な「藻場」が減った。
 アマモ場の面積 1945年頃 8,940 ha→2010年 1,338 ha(香川県・香川県海域における藻場ビジョン 平成30年3月)
●水がキレイになった一方で、栄養塩類の不足などで、海苔の色落ちが発生している。
●子どもの頃と比べて「海や海辺に近づく機会が減った」52.1%(県政モニターアンケート 令和2年度)

「里海」という考え方

海の環境の変化は、高度経済成長からの大量生産、大量消費、大量廃棄も原因であることから、“人がいないことが自然を豊かにする”というイメージで捉えがちだ。確かに環境問題は改善するかもしれないが、一方で“人の手が加わることで保たれる自然”もある。

例えば、稲作のために造ったため池がビオトープとなり、タナゴやドジョウが育つ。人がつくった環境に適応し、生物が繫栄する状態は、人の暮らしと自然生態系のバランスが取れているということである。

この自然との調和という「里山」の考え方を、人の生活領域に近い沿岸海域に当てはめ「里海」という概念が生まれた。里海とは、人の手が加わることで生物生産性と、生物多様性が高まった沿岸海域のこと。太平洋のように外に開かれた海に比べ、瀬戸内海のような閉鎖性水域は、人の暮らしの影響が出やすい。言い換えれば、私たちの行動によって、より豊かな海にできる可能性が高いということでもある。
年月を経て形成された、ため池の生態系も展示(四国水族館)

年月を経て形成された、ため池の生態系も展示(四国水族館)

きれいな海から、豊かな海へ

「里海」の考え方が広がる以前、目指すべき海の姿は「きれいな海」だった。1960~70年代、水質汚濁が進み「瀕死の海」といわれ、赤潮も問題になっていた瀬戸内海では、海に排出する汚濁物質の総量を削減する水質総量規制をはじめとする様々な水質規制を行った。それらが一定の効果を上げたものの、今度は植物プランクトンに必要な栄養塩が少ない「貧栄養」となり、海苔の色落ちにつながった。

規制だけでは、バランスは保てない。海だけではなく、街、川、山と一体的に考えるべき。自然との調和のためには、様々な側面から考える必要がある――といった考え方が広がり、多様性をもつきれいで豊かな海、里海を目指すようになった。

豊かな海には定義がない

豊かな海とは、人も自然の一員として存在しそのバランスが保たれていることが前提で、人の手によって海の価値が高まること。とはいえ「海の価値」で何を重視するかは人によって違う。

例えば、透明な水、ごみのない海岸、多様な生物が豊富に獲れる、美しい風景……。どれかを選ぶものではないが、一つだけ。街の近くに海がある香川県民として、海への親しみを持ち続けておきたい。


WSワークショップ

●あなたが考える「豊かな海」は ?
●海を知り、価値を高める様々な学び――海洋学、環境学、観光学、人口藻場を造る工学……どんな分野に興味がありますか ?

【取材協力:四国水族館館長・農学博士 松沢慶将さん、県環境管理課、県水産課】

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