自ら選べる環境であることが大切
地域の医療、どんな体制が望ましいのだろう

ビジネス香川編集室

Special

2023.01.19

コロナ禍を経て変わった? 香川の「地域医療構想」

コロナウイルス感染症が急拡大し、病院のベッド数(病床数)の不足などが報道された際には、病気やケガの際はいつでも治療が受けられるという“安心”が、崩れたような気持ちになった人もいたのではないだろうか。

改めて地域医療に目を向けてみると、香川では2014年に国が定めた「医療介護総合確保推進法」に基づいて「地域医療構想」を進めていた。地域医療構想は、団塊の世代がすべて75歳以上になる2025年をめどに必要となる病床数を推計し、限られた医療資源を活かして効率的な医療体制を実現する取り組み。背景には高齢化とその後に訪れる人口減少があり、香川では、病床機能報告によると2014年は1万2,270、21年には1万1,280に減少。25年に必要な病床数と推計されている1万112に少しずつ近づいている(※)。

その方向性は、コロナ禍を経た現在も変わっていない。ただ、「効率化=病床数を減らす、という単純な話ではない」というのは、香川県医師会会長・久米川啓さん。まずは病床数の内訳を、常にケアが必要な病気になり始めの「高度急性期」と「急性期」、急性期を経過し、復帰に向けた医療を提供する「回復期」、比較的病状が安定しているが時間をかけたケアが必要な「慢性期」という四つの機能に分け、高齢化で需要が増えそうな回復期・慢性期の病床数を充実させつつ、他の内訳を減らしてニーズに沿ったものにする。その上で、「この病院は心臓手術に強い」「ここは脳神経外科」といったように特徴ある病院づくりを進めた上で、病院どうしの連携を密にする。機能を分化して連携を強化することで効率化が進み、病院の専門性やレベルも高まるといった姿を目指している。

※病院等が、高度急性期、急性期、回復期、慢性期の四つの機能ごとに病床数を報告する「病床機能報告」をもとに算出

「K-MIX R」で情報の連携を

病院の機能分化・連携を強める取り組みの一つとして、香川では全国に先駆けてかがわ医療情報ネットワーク、「K-MIX +」の運用を2014年度から開始した(2021年度から「K-MIX R」として拡充)。これは、地域の診療所、中核病院、薬局などをネットワークでつなぎ、検査結果や投薬情報を共有したり、遠隔で画像診断できたりする仕組み。まずは、何でも相談できる「かかりつけ医」を頼り、必要な時には専門性の高い病院につないでもらう、という地域医療体制の実現にこのシステムは欠かせない。また、検査や薬の重複が防げるなど患者の負担も減る、情報交換を通して医師どうしの連携も深まる、災害時などには、緊急で必要な情報を医師が得られるといったメリットもある。

さらに、21年度からレセプト(診療報酬)情報をもとにした「K-MIX R BASIC」の運用を全国で初めて開始。これまでの病院ごとではなく、個人の診療履歴、投薬状況がどこの病院で受けたものであっても分かることで、よりきめ細かい医療の提供が実現する。

病床などハード面の効率化が進む中で、ソフト面の充実=情報を連携することで一人の患者を複数の医師で支える体制を整えるのも目的の一つだ。

自分はどんな医療を望むか

変わりつつある香川の地域医療。どういう形が「いい医療体制」なのだろうか。「どんな医療を望むかは一人ひとり違う。すべての人が最新の設備で先端医療を望んでいるわけではない」と話す久米川先生。手術をせず静かに自分らしく過ごしたい、という人もいる。そんな患者の人生に寄り添うのが医師であり、自分にふさわしい医療を相談できる医師を見つけることが大事だという。

最新の治療を受けたい、年を重ねても訪問診療などを受けながら地域で過ごしたい、島しょ部・山間部でも安心できる医療体制がほしい……。考え方は様々だが、自分が岐路に立った時、望んだ医療を“選択できる”体制であることが、地域医療の基本なのかもしれない。

WSワークショップ

●あなたが受けたい医療サービスはどのようなものですか。

●医療分野に進もうとしている人へ。専門分野を深く追求する、幅広い知識と経験をもち地域医療に携わる…どんな関わり方を考えますか。

●地域の医療と都市部の医療の違いは何だと思いますか。

●コロナ禍を経て、医療について感じたことは?

【取材協力:香川県医師会会長・久米川啓さん、香川県医務国保課】

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