押しぬき寿司

野菜ソムリエ 上級プロ 末原 俊幸

column

2016.06.16

押しぬき寿司と初夏の食卓(写真提供:香川県農業経営課)

押しぬき寿司と初夏の食卓(写真提供:香川県農業経営課)

讃岐で生活をしていると、いろいろなシーンで寿司が登場することに気が付きます。讃岐には多様なバラ寿司(チラシ寿司)、バリエーション豊富な押し寿司があります。うどんとバラ寿司の組み合わせも讃岐の特徴といえます。

讃岐の「ハレ」の料理(行事食)の代表に寿司料理があげられます。「カンカン寿司(さぬき市)」「石切(いしきり)寿司(小豆島)」「五合(ごんご)寿司(香南町)」「八朔(はっさく)寿司(綾川町)」等、讃岐にはいろいろなバラ寿司、押し寿司の文化が現存します。それぞれの寿司には、季節や行事にまつわるエピソードがあり、今でも家庭や料理店で大切に食べられています。

なかでも、初夏を彩る「押しぬき寿司」は、讃岐を代表する寿司でもあります。

ソラマメ、鰆、錦糸卵などのパステルカラーの食材で彩られ、まさに讃岐の初夏の始まりをほうふつとさせます。そして、香川県は6月が田植えの最盛期。一年の内で最も力を注ぐ田植えに向けて鋭気を養うための料理でもあります。

讃岐の寿司の際立った特徴は、寿司飯の甘さです。私自身、香川県に来て初めてバラ寿司を食べた時の衝撃は今も忘れられません。

寿司飯のレシピを見ると、一般的な調合は酢の量に対して砂糖は3割程度ですが、讃岐の寿司飯のレシピは酢と砂糖の量はほぼ同量なのです。でも、この甘い寿司の味を知ってしまうと、砂糖の利いていない寿司に物足りなさを感じます。当時貴重であった砂糖を多用する寿司に、「ハレとケ」を明確に区別して生活をする讃岐の食文化において、寿司がどれほど重要な位置を占めてきたかをおもんぱかることができます。

この時期に田植えを終えることは秋の実りへとつながるため、田植えにかける意気込みは並々ならぬものであったことが想像できます。貴重なお米をしっかりと食べ、田植えに向けての鋭気を養ってきたのでしょう。麦秋(6月初旬)が過ぎ、これから半夏生(7月初旬)にかけ、讃岐路には本格的な田植えのシーズンが到来します。

鰆(サワラ)

鰆/写真提供:香川県県産品振興課

鰆/写真提供:香川県県産品振興課

讃岐の春を代表する魚といえば鰆を外すことができません。4月下旬の鰆漁解禁から6月まで、高松市中央卸売市場のせり場には鰆が溢れかえります。店頭においてもこの季節は別格扱いされます。ここまで鰆を愛する県民はいないのでは、と感じさせられます。

1998年(平成10年)頃、鰆の漁獲高は激減しました。そこで、禁漁期の設定、稚魚の放流、小さな魚を獲らないよう網の目を調整するなど、瀬戸内海全体で資源管理を行ってきた結果、ここ数年の県産鰆の水揚げは回復し、それまで休止していた「秋の鰆漁」も2012年(平成24年)より再開されました。

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