あまり知られていないことですが、香川県には、二つの地場品種が残ります。一つが三木町やさぬき市長尾などを中心に分布する「碁盤柿(または五番柿)」です。碁盤の足のような独特の形状をした渋柿で、柿の中では果実がやわらかくなりにくいので、晩冬に出荷される「合わせ柿」の品種として重宝されてきました。昭和52年に編纂された『香川県農業史』に、「樹齢200〜300年の古木が農家の庭先にある」という記述があることから、かなり古くから栽培されている品種であることが分かりますが、残念ながら『衆芳画譜』にその姿を確認することはできません。
そして、もう一つが、甘ガキ「大宮早生」です。『衆芳画譜』に描かれた付札のない柿、ヘタの周りに独特の燐(りん)と呼ばれるふくらみがある大宮早生の特徴を見事にとらえています。この品種の特徴は、何といっても受粉樹としての能力の高さです。柿には雄花が付かない品種があり、安定的な生産をするためには、花粉を供給するための品種(受粉樹)を混植する必要があります。昭和54年の調査では、着花数、花粉量ともに非常に多い品種に分類されていることが報告されています。
甘ガキの有望品種「富有」が全国に広まった際、香川県ではその受粉樹として、在来品種の大宮早生が抜擢され、現在でも受粉樹として活躍しています。ただ、果実が市場に出回るのは稀なことですので、もし店頭で見かけたらぜひ手に取ってみてください。
野菜ソムリエ 上級プロ 末原 俊幸さん
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