次世代の暮らしを守るための猶予期間

日本銀行高松支店長 菱川 功

column

2016.07.07

先日、英国の国民投票においてEUからの離脱支持派が多数を占めるという大きな出来事があった。遠い欧州の地での話ではあるが、我が国の為替市場や株式市場にも影響が波及し、グローバル経済との結びつきの強まりを改めて感じた方も多かったのではないだろうか。多くの企業関係者にとっては、今年は、アジアを始めとする新興国経済の動向、年後半に予定される米大統領選の行方など、先行き不透明感が意識されやすい年と言えそうだ。

このようにとかく海外を中心とした不確実性に焦点が当たりがちなご時世ではあるが、地方経済の先行きを考える上では、地元香川で確実に進展中の課題も直視しておきたいところだ。少子高齢化の問題である。

以前、本コラムで昨今の香川県内における人手不足問題は、緩やかな景気回復だけでは説明がつかない感があり、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少の影響も大きいとみられることを紹介した。

この影響が、過去数年間にかなり明瞭に感じられるようになったのは、第一次ベビーブームを担った昭和20年代前半生まれの世代(いわゆる「団塊の世代」)が60歳代後半を迎えたことの影響が大きい。まだ現役で活躍されている方もおられるものの、やはり現役を退く方の割合が高くなるのは自然の摂理に沿ったものだろう。

ところで、経済的インパクトという意味では、団塊の世代の方々が現役から退いていくプロセスは一気呵成に進む訳ではない。雇用延長で働き続ける方もいるし、消費面では、引退で自由に使える時間が増加したために、当初はむしろ消費性向が高まる方もあるかもしれない。また、年代別人口をみても、人数の減少が目立つようになるのは、団塊の世代より一回り程度下の年代からである。

見方を変えると、少子高齢化の進展により、香川経済は大きな転機を迎えているものの、消費や雇用の担い手の減少に伴う地域経済への逆風の強まりが顕著になるまでには、まだなにがしかの猶予期間があるとみられる。人口構造を勘案すると、その長さはおそらく十年から十数年といったところであろうか。つまり、今日、明日といった次元の話ではないが、観光やシルバービジネスの一段の振興、若者世代の定着率の上昇、女性のさらなる活用など、次の世代の暮らしを守るために取り組むべき課題の重さを考えると、決して長いとも言えない。香川経済にとってはまさに正念場かもしれない。

菱川 功|ひしかわ いさお

略歴
1966年1月  兵庫県生まれ
1988年3月  国際基督教大学教養学部 卒業
1988年4月  日本銀行 入行
1999年12月 金融市場局調査役
2004年7月  ニューヨーク事務所
2007年7月  金融機構局企画役
2009年7月  大阪支店営業課長
2011年7月  国際局総務課長
2013年6月  国際通貨基金へ出向
2015年6月  高松支店長
写真
菱川 功|ひしかわ いさお

菱川 功|ひしかわ いさお

略歴
1966年1月  兵庫県生まれ
1988年3月  国際基督教大学教養学部 卒業
1988年4月  日本銀行 入行
1999年12月 金融市場局調査役
2004年7月  ニューヨーク事務所
2007年7月  金融機構局企画役
2009年7月  大阪支店営業課長
2011年7月  国際局総務課長
2013年6月  国際通貨基金へ出向
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