具体的には、「雇用人員」についての設問において、「人員が不足」という回答が「人員が過剰」という回答を大幅に上回り、その乖離幅は比較可能なデータのある過去約20年間では最大の水準に達した。香川では2014年秋頃から人手不足感が強かったが、足元にきてそれが一段と顕著になっている。
実際、香川における失業が完全にゼロになった訳ではないものの、企業経営者の方々にお話をうかがうと、経営上の課題として真っ先に求人難をあげる方が少なくない。では、当地の労働市場では何が起きていると考えれば良いのだろうか。
労働市場の分析には、さまざまなアプローチが考えられるが、「仕事を探しているのに働き口が見当たらない人の比率」(失業率)と、「求人を行っているのに働き手が見つからない仕事の比率」(欠員率)の大きさを比較するのも一つの有用な方法なのでご紹介したい。
一般論として、失業率と欠員率がほぼ同水準にある状況は、失業と欠員が共に存在しているものの、全体としてみれば労働需給がおおよそ釣り合っている状態と考えることが出来る。一方、仮に失業率の方が明確に高いのであれば、景気次第では失業率はまだ下がる余地がある状態と考えられる。
データ面での制約もあるため厳密な把握は困難であるものの、政府の労働力調査や職業安定統計などから類推する限り、当地では、このところ失業率が欠員率を明確に下回っている状況が続いている可能性が高い。
これが示唆するところは、労働市場全体の需給環境としてはもはや職探しより人手探しの方が難しくなっており、仕事を探している人の相応の部分は何らかのミスマッチに直面している可能性が高いということであろう。
言い方を換えると、人手確保の実現には、求職者のミスマッチを何らかの形で解消するか、ゼロサムの世界で他社との競合に打ち勝つか、どちらにしても比較的高いハードルを越す必要がありそうだ。少子高齢化に伴う人口減が続く中で、香川の採用事情は大きな曲がり角を迎えている感がある。
菱川 功|ひしかわ いさお
- 略歴
- 1966年1月 兵庫県生まれ
1988年3月 国際基督教大学教養学部 卒業
1988年4月 日本銀行 入行
1999年12月 金融市場局調査役
2004年7月 ニューヨーク事務所
2007年7月 金融機構局企画役
2009年7月 大阪支店営業課長
2011年7月 国際局総務課長
2013年6月 国際通貨基金へ出向
2015年6月 高松支店長 - 写真
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