労働市場の実態把握は、少子高齢化に直面する県経済の今後を考えていく上でも極めて重要だが、都道府県レベルでの労働市場統計には様々な制約もあるのが実情である。この点、昨年実施された国勢調査は、カバレッジの広さやデータの詳しさなどから、重要な参考材料になりうる。同調査は、本年6月には就業状態に関する統計を含む速報値(全世帯の約100分の1を抽出して集計を行ったもの)が発表されたところであり、以下では、主だった特徴点をみていきたい。
まず、労働力の裾野の拡大は着実に進展した。注目された子育て世代(主に20代後半~40代前半)の女性の年齢別人口に占める仕事に就いている人(就業者)の比率は総じて上昇した。また、60代後半の男女の人口に占める就業者の比率が上昇するなど、高齢者の活用も一段と進んでいる。
もっとも、高齢化の進展に伴い労働市場から退出された高齢者の人数そのものは増えており、こうした労働市場からの引退者が若年層による新規参入を大きく上回っていることを主因に、就業者の合計は前回調査に比べ1万人以上減少している。
この間、完全失業者数は2万人余と、前回・前々回調査(3万人余)をかなり下回った。これに対し、昨年度における月間平均の有効求人数は、香川労働局の職業安定業務統計によると2万5千人弱(就職件数は同1,750人)だったので、両者を比較すると充足されなかった求人数が失業者数を上回っている可能性が高いことがうかがわれる。言い換えると、労働市場全体のバランスとしては、やはり人手が足りなそうだということである。
以上を全体としてみると、香川では、労働力の裾野の拡大が進んでいるものの、少子高齢化の進展に伴う働き手の減少傾向が顕著となる中で、失業が減り、人手不足感が強まっている姿が見えてくる。少子高齢化の影響は当分の間は続くと見込まれることを考えると、足元の人手不足も多分に構造的なものと考えられ、その意味では「人余りの時代」はもはや過去のものとなった感は否めない。
菱川 功|ひしかわ いさお
- 略歴
- 1966年1月 兵庫県生まれ
1988年3月 国際基督教大学教養学部 卒業
1988年4月 日本銀行 入行
1999年12月 金融市場局調査役
2004年7月 ニューヨーク事務所
2007年7月 金融機構局企画役
2009年7月 大阪支店営業課長
2011年7月 国際局総務課長
2013年6月 国際通貨基金へ出向
2015年6月 高松支店長 - 写真
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