食材におけるハレとケ

野菜ソムリエ 上級プロ 末原 俊幸

column

2016.10.20

小豆島の農村歌舞伎に欠かせない「わりご弁当」(写真提供:香川県農業経営課)

小豆島の農村歌舞伎に欠かせない「わりご弁当」(写真提供:香川県農業経営課)

讃岐の食文化では、日常的な「ケ」の料理と、特別な日の「ハレ」の料理を明確に区別することができます。そして「ハレとケ」の区別は料理にだけでなく、食材にも存在します。

讃岐の食文化では、日々の生活を引き締め倹約に倹約を重ねた結果、日々の生活に「ケ」のという文化が確立してきました。一方で、ただ倹約するだけではなく、正月やお祭りなど特定の日には贅沢(ぜいたく)をする「ハレ」の文化も併せて進歩しました。

そして「ハレとケ」の区別は料理だけでなく、その素材にも表れています。「ハレ」の食材の代表は米であり、日常的には貴重な米を倹約して、麦や野菜を使います。現代は学校給食など活躍のシーンは減ってきた麦飯も、当時は裸麦を半分以上混ぜたものが頻繁に食卓に上がっていました。また、現在においても、整粒米とくず米(割れたり規格より小さい米)を分け、「くず米は炊き込みご飯」と使い分けをする文化が生きています。また、香川の食についてまとめた本には「今日はお米は炊かずにイモとカボチャで済ませる」そんな記述も見られます。

米以外の食材にも、豆類では換金作物である大豆と日常食であるソラマメ、魚介類ではタイやサワラと日常的な小魚、貯蔵の効く穀物と鮮度が悪くなりやすいが日常的に大量に生産される野菜、というように各々の食材において明確な「ハレとケ」の区分が存在することがわかります。また、これら日常的に豊富な「ケ」の食材をおいしく食べこなしてきた結果、多様な「ケ」の食文化の成立が生まれたと推測されます。

「ハレ」の料理や食材は歴史の表舞台に出てきますが、「ケ」の食材は日常的すぎてその価値に気づきにくいのが現実です。でも、県内に現存する数々の食文化を俯瞰的にとらえると、実に豊かで多様な「ケ」の食材と文化が明らかになります。

「ハレとケ」の使い分けは日本全国に共通することだと思いますが、讃岐の食文化にはまだまだ「ハレとケ」の使い分けが県土全域にわたって色濃く息づいており、香川県の食文化は日本においても非常に稀有な存在なのだと実感します。

しっぽくうどん

しっぽくうどん(写真提供:香川県農業経営課)

しっぽくうどん(写真提供:香川県農業経営課)

讃岐の秋から冬を彩る郷土料理。サトイモ、ダイコン、ニンジンなど、その時折に畑で収穫される野菜を煮立ててしょうゆで味を調えた出汁をうどんにかけていただきます。

季節の野菜、しょうゆ、イリコなど、日常的な「ケ」の食材をふんだんに使い、手早く美味しく仕上げられる、まさに、讃岐の「ケ」の料理の代表的な存在と言えましょう。

野菜ソムリエ 上級プロ 末原 俊幸さん

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