「クレーンのプロ」たちと世界一を目指す

タダノ 社長 氏家俊明さん

Interview

2021.06.03

2021年4月、建設用クレーンなどを製造・販売する世界有数の建設機械メーカー「タダノ」の社長に就任した。就任会見では、創業家出身者以外の社長は初めてということにも注目が集まったが、「前社長は多田野という名前だからではなく、一番結果を出せる人物だから社長だったと考えています。そういう意味で、受け継いだ私も結果を出さないといけない」

前職は総合商社「丸紅」で役員を務め、退社までの大半は、建設機械の分野でキャリアを積んだ。建機の輸出入に関する事業の中で、タダノのクレーンを扱ったこともあるという。総合商社はありとあらゆる商品を扱う。その中には、石油、石炭、穀物などのように相場の上下がすぐに利益や損失につながる『相場もの』といわれる商品もあるが、建機はそこまで短期的な相場には左右されない。「ずっと建機の業界にいた自分は、相場ものに対して判断した経験が少ない。一方で、建機に関しては社会のニーズ、それに対して何をどのタイミングでやるべきか、といったことが直感的に分かる」

そんなキャリアから、縁あってタダノに入社した。「ある分野で世界一になれる日本のメーカーは実は少ない。タダノはその可能性があると感じました。それは大きなモチベーションになりました」

時代が求めるニーズをつかむ

建設機械には、ブルドーザーやショベルといった掘削系と、ワイヤで巨大なものを吊り上げて移動させるクレーンなどがある。掘削系の建機は、地面と接する部分や繰り返し動かすアーム部分が摩耗するため、買い替えや部品交換のニーズが定期的にある。しかし、クレーンは耐久性に優れ、オーナーが買い替え時期を1年延ばしても大きな問題にはなりづらい。「壊れたからというより、景気がよくなり工事の受注が増える、今持っているクレーンが中古市場で高く売れることが買い替えのきっかけになる。同じような時期に買い控え、買い替えが集中することになり、会社の売り上げの増減も大きい」

現在は、コロナ禍で先行き不透明であること、価格の安い中国製クレーンがアジア市場で台頭し、日本製クレーンが中古・新車ともに激しい競争にさらされるなど、経営環境は厳しさを増している。「商品の特性上、安定経営が難しい部分はあります。だからといってほかの商材に事業を広げるのではなく、あくまでクレーンで世界一を目指したい」
現場でのクローラクレーン

現場でのクローラクレーン

その戦略の一つとして、欧州、北米、アジアに法人や生産拠点を設立し、海外での売り上げシェア8割を目指している。「世界の人口は増えており、需要はまだ伸びる」。19年には、ドイツを拠点に創業150年を超える世界的な老舗ブランド「Demag(デマーグ)」のクレーン事業を買収した。そのことで、タダノが今まで製造していなかった超大型の「クローラクレーン」、「オールテレーンクレーン」などが商品ラインアップに加わった。それらの超大型クレーンのうち、タイヤではなく鉄の帯をはいたクローラクレーンは、3200トンもの資材を吊り上げることができる。

今後拡大すると予想される洋上風力発電では、巨大な風車を港湾で事前に組み立て、専用船に積み込む際にクローラクレーンが活躍する。「環境負荷を抑える動きが広がる中で、クリーンエネルギーへの需要は高まってくる。世界に販売拠点があり、優秀なエンジニアもいるタダノにとっては、大きなチャンスです」

「変革」が使命

2019年に完成した香西工場

2019年に完成した香西工場

新入社員のとき、上司に言われた言葉を今も覚えている。「お前がおかしいと思ったことは、絶対おかしい。自分の感覚を信じなさい」。違和感をそのままにせず、まずは自分でとことん調べる。それでもおかしいと思えば、きちんと伝える。

就任の際、前社長に言われたのも「“よそ者の目”で見ておかしいと思うことは、変えていけばいい」という言葉だった。「ずっと同じ会社にいたら当たり前だと思うことも、それは違うと気づくことがある。気づいた時に私が言わなかったら、この会社にきた意味がない」

変えるべき社内の制度や仕事の進め方などに加え、新たに取り組むことも多岐にわたる。排ガス・脱ディーゼルでクリーンな建設現場を目指すための電動化、吊り上げる資材の判別や効率的な移動をIT導入で自動化する、鉄のクレーンの一部を炭素繊維にして軽量化を進める……など。「新しい技術はさまざまな分野で日々進化している。その開発や導入に対して、二番手三番手になることは考えていません」

そのためには、スピード感が大事だという。「現在、AIや自動化などの先端技術で日本が一番進んでいるとは言いがたい。社会の動きや変化を、世界中にいる社員たちが敏感に感じ、すぐに行動してほしいと思っています」。これまでのキャリアの中で世界を見てきた社長と、歴史を積み重ねてきた社内のプロたちが 、建設用クレーン分野の”世界一”を目指す。

石川恭子

氏家 俊明 | うじいえ としあき

略歴
1961年 東京都出身
1984年 丸紅株式会社入社
2009年 建設機械部長
2013年 経営企画部長
2014年 執行役員
2017年 常務執行役員
2018年 常務執行役員、
    輸送機グループCEO
2019年 株式会社タダノ入社、企画管理部門付顧問
    取締役執行役員専務
2020年 代表取締役副社長、企画管理部門・
    グローバル事業推進部門・CS部門・
    国内営業部門・海外営業部門・
    米州事業部門統括、営業統括部門担当
2021年 代表取締役社長

株式会社タダノ

住所
高松市新田町甲34番地
代表電話番号
087-839-5555
設立
1948年
社員数
連結5084人(2020年3月末)
事業内容
建設用クレーン、車両搭載型クレーン及び高所作業車等の製造販売
地図
URL
https://www.tadano.co.jp/
確認日
2021.06.03

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