高齢者が自由に暮らせるコミュニティをつくる

あおば内科クリニック 院長 辻上幸司さん

Interview

2021.01.21

医療機関が高齢者施設を設立する場合、医療サービスが必要で自宅ではみることができない人を対象にした施設であることが多い。あおば内科クリニックの院長である辻上幸司さん(50)は、あえてそうしなかった。

2018年に開設したサービス付き高齢者向け住宅「瀬戸雅」は、主に自立して生活できる人を対象にしている。「自分らしく過ごしながら何かあったときも安心、という選択肢があまりない気がしていました。ニーズは決して多くないかもしれませんが、必要としている人は必ずいるはずです」

施設を立ち上げるとき、祖母のことが頭にあった。祖母は高齢者施設に入ることを嫌がり、自宅で過ごしていた。しかし体調が悪化し、同居していた親族も同じ時期に体調を崩し、祖母は急きょ入院した。入院したのが昼過ぎでその日の夜に亡くなってしまった。「たった数時間のために入院させたことが、ものすごく申し訳なかったし、親族も大変な思いをした。別の選択肢はなかったのだろうか」

祖母が嫌がっていたように、高齢者施設はどちらかというと、自宅で過ごすことができず“仕方なく入る”というイメージが強い。もっと前向きに、住み替えるぐらいの感覚で選択できる施設があってもいいのではないか。「どうせなら、自分が将来暮らしたいと思える場所をつくろうと思いました」
ある日のイベントの様子

ある日のイベントの様子

敷地の一角に、和風カフェがある。モーニングとランチが好評で、近所の人も訪れる。「高齢者施設は地域になかなか溶け込みにくい。オープンな場所にしたかった」。コロナ禍の前はフリ―マーケットなどのイベントも開催し、地域の人と交流を深めていた。発表の場を失った学生たちがマーチングバンドのパフォーマンスを披露する屋外ミニイベントも、コロナ禍が少し落ち着いた時期に開催した。

「本当はもっとイベントをやりたい。スタッフと入居者が参加する遠足も計画していました」

スタッフには介護技術だけではなく、コミュニケーションも磨いてほしいと伝えている。「ここは“生活の場”。入居者やその家族が笑顔で過ごせるように接してほしい。同時に、スタッフ自身も笑顔であってほしい」。1日の3分の1の時間を費やす仕事。だからこそ、楽しく誇りをもって働ける職場にしたいという。
和風カフェ 竹取庵

和風カフェ 竹取庵

現在、入居者は定員よりかなり少ない。「まだまだこれからですが、少しずつ入居者が増えて30人ほどになれば、スタッフと合わせてこの場所自体が一つのコミュニティになります」

住む人が自立し、入居者、スタッフ、地域の人がゆるく交流しながら日々を過ごす。「もしかしたら、昔の町内会のように誰かを見送ることがあるかもしれない。小さいけれど一つの社会としてゆっくり育てていきたいと思っています」

石川恭子

辻上 幸司 | つじがみ こうじ

1970年 高松市生まれ
1989年 香川県立高松高校 卒業
1997年 徳島大学医学部 卒業
    徳島大学病院、旧・国立善通寺病院などで勤務
2008年 あおば内科クリニック開院
2018年 サービス付き高齢者向け住宅「瀬戸雅」 開設

あおば内科クリニック

住所
香川県高松市上林町495
代表電話番号
087-813-8200
設立
2018年
事業内容
サービス付き高齢者向け住宅 瀬戸雅(せとみやび)
サービス付き高齢者向け住宅「瀬戸雅」、
デイサービス「瀬戸日和」運営、
和風カフェ「竹取庵」 併設
確認日
2021.01.21

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