「着付けの悩み」の中に、商品開発のヒントあり

合同会社 一級さん 代表 村瀬真智子さん

Interview

2020.11.05

着物の下に着る長襦袢(じゅばん)は、着付けのときに「衿芯(えりしん)」といわれる小物を衿の内側に入れて張りをもたせる。衿芯は80㎝ほどの1本の細長い板状が一般的だが、長さ55㎝ほどの板を二枚一組にして使う商品「ピッタリ衿芯」が京都、東京などの着物店で注目を集めている。

開発したのは村瀬真智子さん。40年以上和裁士として仕事をしてきた一方、18年前から着物店で接客もするようになったことが転機となった。「それまではきれいに縫い上げたら終わりで、お客さんがどんなふうに着ているか見たことがなかった。でも、話を聞くうちにお出かけ着なのか茶道・華道・踊りの時に着るのかといった目的、体形によって仕立て方を変えないといけない、と思いました」

なぜかきれいに着られない、着崩れる…お客さんの悩みに仕立て方を変えて何とか解決できないかと試行錯誤する中で、簡単にきれいに着付けできる小物の開発を考え始めた。

「和装小物はこの形、という固定概念にとらわれていては前に進めない」。新たな発想で最初に開発したのがピッタリ衿芯だった。長襦袢の衿は首の真後ろの幅が狭く、顔の下にくる部分の幅は少し広い。1本の衿芯を通そうとすると、一番細い部分に衿芯の幅を合わせないといけないため、衿が広い部分では衿と衿芯の幅が合わず、しわの原因になっていた。それを2枚に分けることで、衿のどの部分でも幅いっぱいに衿芯が当たるようにした。

「衿芯=1本の板というイメージですが、ゆくゆくは“二枚一組”が標準の形といわれるようにしたい」
「ピッタリ衿芯」。左右それぞれの衿先から1枚ずつ入れれば、衿のどの部分でも幅いっぱいに衿芯が当たる。上部の細い部分は首の後ろ側にくる

「ピッタリ衿芯」。左右それぞれの衿先から1枚ずつ入れれば、衿のどの部分でも幅いっぱいに衿芯が当たる。上部の細い部分は首の後ろ側にくる

5年かけて開発した商品を多くの人に知ってもらいたいと、全国200社の問屋や着物店に送った。展示会にも出かけてPRした。「でも、個人ではなかなか相手にしてもらえなくて」。あきらめそうになったが、使ったら絶対いい商品だとわかってもらえると、60代で合同会社を設立した。

地道な努力の結果、県内の大手呉服店が展示会来場者用のノベルティとして採用。反響をよび、全国シェアの高い京都の問屋、東京へと広がっていった。
展示会の様子

展示会の様子

社名の「一級さん」には2つの意味がある。村瀬さんが和裁技能士1級であることと同時に「とんちの一休さん」のように、技術や今までの経験、知識を駆使してあの手この手でお客さんの着付けの悩みに応えたいという思いも込められている。

現在、長襦袢の衿まわりの新商品を制作中だ。「どうやったら解決できるか考えて商品開発するのは楽しい」。着付けが大変と思われがちな着物を、簡単にきれいに着られるように。「決まりごとに縛られすぎず、まずは自由に着物を楽しんでほしい。そのサポートができる商品を開発していきたい」。また、ECサイトを充実させ、全国の着物愛好家に発信したいと意気込む。

石川恭子

村瀬 真智子 | むらせ まちこ

略歴
1956年 まんのう町(旧満濃町)生まれ
1975年 善通寺第一高校 卒業
1979年 香川県高等職業訓練校 原和裁研究所 卒業
和裁士として仕事をする
2002年 着物販売・着付け・営業の仕事にも携わる
2019年 合同会社 一級さんを設立

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