関心をもってもらうことが、自然保護につながる

環境省中国四国地方環境事務所 四国事務所長 櫻井洋一さん

Interview

2019.10.03

「自然の魅力……うまく言葉にできませんが、心引かれる“何か”があるんですよね」。農学部の造園学講座に進んだ大学時代、自然保護に携わる「自然保護官(レンジャー)」という仕事を知り、その道を志した。

レンジャーの業務は、国立公園内での開発に関する許認可といった公園管理、希少生物の保護、環境教育など多岐にわたる。自然を守るのが仕事だが、「そのために、ただ規制をすればいいというわけではないんです」。例えば、上高地に赴任した時に担当したマイカー規制の運用。人がたくさん来ると植生が荒れるが、規制を厳しくしすぎると自然の素晴らしさに触れる機会を減らしてしまう上、観光面でもマイナスになる。どう運用するか関係者と粘り強く話をしてベストな方法を考えていった。

「自然に触れ、関心をもってもらうことも、自然保護につながると思います」。守りながら利用も進め、地域活性化に生かしていく。「相反することを同時にやるのは難しいですが、工夫のしがいがあります」

南極にて

南極・昭和基地付近、アデリーペンギンのコロニーの前で

南極・昭和基地付近、アデリーペンギンのコロニーの前で

さまざまな地域に赴任してきた中で、印象に残っているのは「南極」だという。赴任したのは、環境保護に関する南極条約議定書が発効された1998年の前年だった。当時、南極への観光客が少しずつ増え、生態系を保護するために国際的な議定書が採択された。所管する環境庁(現・環境省)から、昭和基地での南極観測隊の活動を視察するために派遣された。

「辞令を受けた時から、未知の世界に行けるとワクワクしていて」。ペンギンのコロニー(集団で営巣・繁殖している所)に調査に行く研究者に同行したり、地震の研究者を手伝ったり。「時には白夜の中12時間ぐらい作業することもありましたが、つらいと思ったことは一度もなかったですね」。

約4カ月半の派遣期間のうち行きと帰りに1カ月ずつかかるため、現地での活動は2カ月半ほど。「今までと全く違う景色、自然の中で過ごした日々。本当に貴重な経験をさせてもらいました」

地域の景観を楽しむ

春山登山。穂高岳涸沢(からさわ)カール手前で

春山登山。穂高岳涸沢(からさわ)カール手前で

全国各地に赴任して、地域の自然状況を見られるのが嬉しいという。プライベートでも、土地の自然を楽しむ。土佐清水市ではスキューバダイビング、釧路ではカヌー、上高地では登山。登山は今も続けている。そんな櫻井さんから見た香川は「自然と人々の営みが融合しているところが魅力ですね」

北海道や上高地みたいに見渡す限り自然が広がりそこにどっぷりつかる、というのではない。しかし、船から多島美を見る、芸術作品を見る、土地の食を味わう。いろんな側面を楽しめるのがおもしろいという。「自然にあまり興味がない人も芸術、グルメなどいろんな切り口から関心をもってもらえるチャンスはある。地元の自治体などとも協力しながらそのきっかけをつくっていきたいですね」

石川恭子

櫻井 洋一 | さくらい よういち

略歴
1962年 東京都生まれ
1981年 静岡県立榛原高校 卒業
1987年 北海道大学農学部 卒業
1989年 北海道大学大学院修士課程 修了
    環境庁入庁
1992年 足摺宇和海国立公園管理官
1996年 中部山岳国立公園上高地管理官
※97年11月~98年3月 南極観測隊に夏隊オブザーバーとして参加
2007年 釧路自然環境事務所統括自然保護企画官
2009年 JICA専門家としてインドネシア林業省に派遣
2014年 福島環境再生事務所首席調整官
2017年 新宿御苑管理事務所長
2019年 中国四国地方環境事務所四国事務所長

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