竹から綿つくる装置開発 世界を変える夢ふくらむ

東亜機工 代表取締役 田淵 国広さん

Interview

2012.10.04

かぐや姫は、育ての親の翁(おきな)と媼(おうな)を残して月に帰ったが、竹から綿を作り出して資源にしようという物語が始まった。

紙おむつ製造機を、綿や不織布(ふしょくふ)を使いこなす技術を開発した東亜機工社長の田渕国広さん(66)は、2009年竹から綿を作る竹綿製造装置の開発に世界で初めて成功した。

竹の綿は薄いシートや不織布などに加工できる。繊維の微粉末はバイオマスプラスチックになるから環境負荷が少ない。防臭、抗菌、防湿、鮮度保持など竹の特性は、自動車や鉄道車両の内装、建材や衣類、食品資材、衛生用品、介護用品など応用は限りない。

「竹は1ヘクタール当たり毎年10~15トン取れるから、有限の化石資源や自然保護の強化などで供給が厳しくなりつつある木材を補う原料になる」。現代版の竹取物語は世界を変えるかもしれない。

※バイオマスプラスチック
生物資源から作られたプラスチックのこと。植物が 二酸化炭素を光合成で固定してつくった物質を使うため、燃焼廃棄しても地球上の二酸化炭素の増減に影響を与えない。

カンボジア王族、非公式に視察

「今年3月、シリウッド殿下が非公式で視察に工場へ来られたんです」。去年の春、日本の4倍100万ヘクタールに竹が自生するというカンボジア王国から、竹加工産業の育成を目指す国家プロジェクトに加わるよう要請された。

構想は、政府が会社を設立して竹を伐採、供給して日本の企業が現地で加工する。参加企業は東亜機工と日生化学(東かがわ市)、昭和紙工(観音寺市)などで、製品は日本に輸出する。倉敷のNGO「カンボジアの村を支援する会」(大西秀明代表)も協力して、2年後に試験稼働の予定だ。軌道に乗れば30万人の雇用が見込める。

※ノロドム・シリウッド殿下
ノロドム・シハモニ現・国王のおじ。

工程を分ける製造方式

竹から綿や繊維を作る装置は、大手機械メーカー2社も開発していた。「その一社は、国の補助金でうちと同時に開発をスタートしましたが、自動車メーカーが求める内装材の品質が出来ないので止めました」

大手は資金も人材も余裕がある。「うちは明日の飯が食えなかったら家内に怒られますから、背水の陣で取り組みました」

「出来るわけがない」と設計エンジニア10人全員が反対した。「大手メーカーさんは、一貫加工することで、竹を綿にする装置を作ろうとしました。その方が高効率、低コストですから」

加工方式が成否のカギを握っていた。「よそが出来ないから、うちがやるんや。まず竹を割るにはどうすればよいかを考えるのだ」と社員に話し、工程を分けて加工することを考えさせた。

竹を割るだけなら、簡単だ。十文字の金型で割れる。割れた竹をロータリー鉋(かんな)で削るとチップになる。コンベヤで蒸気の中を通すとチップは柔らかくなる。刃物を改良した従来の粉砕機で、チップは綿になる。

「紙オムツやナプキンの吸収体を、粉砕機でパルプを紙綿にして作っていたので、竹のチップを綿にする方法はすぐ分かります」

加工段階ごとに分けて考えた工程を、まとめて製造装置が出来た。

安定・大量供給が課題

全国各地の里山で今、放ったらかしにされた竹林が無秩序に繁殖していることが問題になっている。伐採して焼却すると1トン当たり数万円かかるから、自治体は困る。建材メーカーや紙製品メーカーは、輸入に頼る木材やパルプ原料が供給不足に陥っていることを心配している。

いろんな心配事を1つにまとめて、新竹取物語が始まった。熊本県御船町は、竹綿製造機で竹プラスチックを作って町の資源にするプロジェクトを立ち上げた。鹿児島県薩摩川内(さつませんだい)市では、中越パルプ工業と協定を結び、パルプ製造を始めた。

バイオマスプラスチックは、シックハウス対策用建材や、東北新幹線車両の内装に、竹綿の炭シートはエアコンや自動車エンジンのフィルターに、断熱材や壁紙にすると病院や老人介護設備などの消臭に使える。材料自体に耐熱性や電磁波遮断効果もある。用途は広い。

ただ、竹を安定して大量に供給する仕組みづくりは容易ではない。「竹を伐採して集めるのは行政が補助金を出して地主や地区が実行し、バイオマスプラスチックをつくる企業と協力しながら、原料にする竹を供給する社会システムをつくるのが難しく、なかなか事業化できないのです」

※シックハウス
新築の住居などで起こる、倦怠感・めまい・頭痛・湿疹・のどの痛み・呼吸器疾患症状が出る体調不良の総称。

中国のオファーを断る

日本の24倍、600万ヘクタールが竹林だという中国が竹綿製造装置に注目している。プラスチックは石油が原料だが、環境負荷の少ないバイオマスプラスチックに代替させる狙いだ。

「トウモロコシでやろうとしていますが、食料に影響がありますから、50トン規模の大型装置を共同開発しようと提案されました」

竹綿製造装置の1日当たり生産量はまだ5トンだ。「150トンまで可能です。大手メーカーと組めばやれるかもわかりません」。竹の繊維化を邪魔する成分であるリグニンを除く時間が短縮できない。

「高級技術者を派遣する。滞在費も開発費も1年分先渡しする」「国家プロジェクトにする」と担当者から聞かされた。熟慮したすえ、断った。

大企業でさえ成功しなかった竹綿製造装置だ。特許の一部分は日本と中国で取得したが、核心部分は秘密にしている。共同開発で大切なノウハウを知られることを警戒した。

※リグニン
木材・竹・藁(わら)など木化した植物体中に20~30パーセント存在する芳香族高分子化合物。セルロースなどと結合し、細胞間を接着する。

現代版竹取物語の序章

▲竹を原料にした綿素材。様々な用途が広がる   ▲竹綿の炭シート。消臭効果あり、熱に強く電磁波も遮断する

▲竹を原料にした綿素材。様々な用途が広がる   ▲竹綿の炭シート。消臭効果あり、熱に強く電磁波も遮断する

「紙オムツもウエットティッシュもフェースマスクも母乳パッドとか脇汗パッドも、これまで世界になかったものを作りだすのは、暗闇を進むのと同じ。疲れます」

社長室に弘法大師像を安置している。

「弱気になった自分を戒めるため。お大師さんは世の中に役に立つものを残すことが人生の価値だと教えてくれます」

今までの開発で一番苦労したのは竹綿製造装置だという。「1日5トンでは、自動車部品や建材、衛生用品業界のニーズに応えられません」

これから大型設備の開発に取り組む。量産できる日がくるまで決してあきらめない。

想像力は現実を変える力に十分なり得る。竹綿が、荒れた里山を、地域を、再生する現代版竹取物語の静かな序章である。

田淵 国広 | たぶち くにひろ

1946年 観音寺市生まれ
1964年 笠田高等学校卒業
    (株)クボタ入社
1966年 ユニ・チャーム(株)入社
1972年 同社退社
1974年 東亜機工(株)創業し社長に就任
写真
田淵 国広 | たぶち くにひろ

東亜機工株式会社

所在地


三豊市豊中町4158-1
TEL:0875-62-5000
FAX:0875-62-5100
代表取締役社長
田渕 国広
資本金
1000万円
従業員数
18人
事業内容
機械製造、竹関連事業
沿革
1974年 会社設立
1978年 観音寺に念願の工場が完成
1979年 子供用ギャザー付オムツ製造機を開発し大手メーカーに納入
ナプキン製造機を中国に輸出
1983年 コーヒーフィルター製造機を開発
1987年 パンツタイプの大人用の紙オムツ機を開発
1990年 高速カイロ製造機の開発に着手
1991年 新型ウエットティッシュ製造機を開発
1992年 中国では初となるパンティライナー製造機を輸出
1993年 高速型母乳パット製造機を開発
1995年 高速カイロ製造機が完成
   三豊市工業団地に新工場が完成し移転
1996年 イタリア、台湾にウエットティッシュ製造機を輸出
1998年 フェィスマスク製造機を開発
2000年 ペットシート製造機を開発
2002年 新型高速カイロ製造機を開発
2005年 ミニサイズ高速6列カイロ製造機を開発
2009年 世界初の竹綿製造機の開発に成功
確認日
2018.01.04

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