創業時に、手袋の「織りネーム」販売から始まった事業は、何度も脱皮して成長を続けている。「創造」と「革新」の原動力は、他業種からの「第三者の視点」だった。
会社の成長を支えてきたバッグが、海外との競争が激化してきた中で、途中入社だった田中秀和さん(46)は、電機半導体分野へのパッケージを主力事業の一つに育て、2009年に社長に就任した。
1年後、田中さんは素材開発の「日生化学」と、バッグ製造のグループ会社「日生工業」を合併した。目指すのは「The ECO-Solutions Company」。
企業の環境対策が加速するのに対応して、「本気の環境配慮」を、オンリーワンの「発泡・改質・リサイクル」技術で支援する・・・・・・新しい「日生化学」がスタートした。
※(ポリエチレン)
炭素と水素から出来た合成樹脂。防水性、防湿性が高く、油や薬品にも強く、毒性を含まずに安全で、着色や印刷も自在といった特徴がある。
※(発泡ポリエチレンバッグ)
商品名パール・バッグ。用途は結婚式の引き出物袋やショッピングバッグなど。
※(The ECO-Solutions Company)
ジ・エコソリューション・カンパニー。技術力で顧客企業の環境配慮や、エコ製品開発を支える経営ビジョン。
第三者の視点
「地元の手袋企業の多くが、日本や世界を相手に商売をしていました。父もそんな業態を目指して、織ネーム販売業から、新素材といわれたプラスチック事業に本格参入したんです」。入社当時は、食品包装資材の製造や、バッグ用のポリエチレンフィルムを日生工業に供給していた。
「商社の第三者の視点で見ると、真珠の輝きのようだといわれたポリエチレンの発泡技術は、どこにも負けないし、別の用途に使えそうだと直感しました」
ポリエチレンフィルムの販売先に、用途が分からない顧客がいた。「調べてみると、その先に『半導体分野』のお客さんがいたんです」
用途は、半導体を製造工程の振動や衝撃、ホコリなどを防ぐ包装材だった。
直感・予測・確信
すでに価格競争の時代に入りかけていたバッグの営業の一人が賛同して、チームを組んだ。二人は業界を回って、発泡技術の新市場を確信した。
道のりは簡単ではなかった。半導体を解説した本を買って2人で勉強しながら営業した。訪問先の顧客の専門用語も分からなかった。「分かったような振りをして、机の下でメモして、後で調べました」
開発作業は手探りだった。集めた情報を元に、原料メーカー等の外部団体にも委託しながら、半導体部品用包装材「クリアシート」を製品化した。
製造も自分たちで
「バッグの製造が忙しいのに、何でこんなことをという雰囲気はあったと思います。やむなく、勤務時間が終わった後、自分たちで受注したものを加工しました」
事業化を開始した年はほとんど売れず、営業会議ではつらい思いもした。売り上げは少しずつ伸びて、工場も協力してくれるようになった。
販売先の向こうに、もっと大きな市場があった。「半導体部品工場へ納入するまでに、もう1回加工しないといかんのです。そちらの方が事業の発展性がありました」
最初に見つけたのは素材の市場だった。二次加工はもっと大きな市場だった。3年後の99年、二次加工の機械を備えた新工場を建てた。電子部品用包装資材分野が1つの事業としてスタートした。
事業開始当初から参画した社員は、業界では名の通った営業マンになって顧客の信頼は厚い。また自分の仕事に忠実だったために、新規事業に対して迷惑さを隠さなかった社員も、今は製造部門のリーダーとして活躍している。
市場は「本気の環境配慮」にあり
日生工業を吸収合併してスタートした日生化学は、企業の「本気の環境配慮」をターゲットに、二つの分野の製品群を開発、投入した。高品質リサイクル製品群「アップサイクル」と、CO2排出や有害物質を抑制する環境配慮の製品群「エコアクセル」だ。
今年から営業部隊も再編成した。商品分野(バッグ、包装資材、新素材)ごとだった営業を、得意分野が異なる3人の混成チームにした。狙いは営業マンの多能工化だ。
※(多能工化)
一人一人が一つの仕事だけではなく、他部署の仕事もこなせること。
世界初、回収ペットボトルのフィルム化
「きっかけは半導体メーカーの環境対策でした。電子部品の製造で使った後、廃棄ゴミになるクリアシートを回収して、発泡ポリエチレンバッグに再生したんです」
プラスチックは、再加熱して成形すると何度でも使うことが出来る。その再生プラスチックに、新しい機能をもたせる技術を「改質技術」と名付けた。
ペットボトルは、リサイクルの時の再加熱で水分と反応して劣化するので、再生品は繊維製品等に用途が限られていた。これにも挑戦した。
「最初に開発したペットボトルの再生フィルムは、ペット以外の原料を混ぜていました。その技術をもっと改良して、2009年に、世界で初めて回収ペットボトルを99%使ったフィルム化に成功しました。この技術の最大の特徴は、ペットボトルのフレークをそのまま成形できることです」
淡々と語ってきた田中さんは、初めて、胸を張った。
※(改質技術)
再生プラスチックの品質を向上させ、熱接着性を高めるなど、プラスチックに新しい機能を加える技術。
※(フレーク)
ペットボトルをリサイクルするとき、粉砕して小片にしたもの。
微細発砲技術でエコ製品
食品や液体洗剤などの詰め替え袋は、品質保持のためラミネート加工した素材が使われるが、この新しいフィルムは、発泡フィルム自体にシーラント機能を持たせているので、環境に影響する揮発性有機溶剤を含んだ接着剤の使用を減らせる優れものだ。
※(ラミネート加工)
フィルムなどを重ね合わせて接着すること。
※(シーラントフィルム)
貼りあわせたラミネートフィルムを、熱で接着する機能を持たせたフィルム。
エコ市場を創る
「TOTOさんは便座を、富士ゼロックスさんとリコーさんはプリンターのハードケースやカートリッジを、わが社の『改質技術』で手提げ袋や、書類やカタログを入れる袋にリサイクルしました」
国内市場が中心の日生化学は、オンリーワンの「発泡・改質・リサイクル」技術で、顧客企業のエコロジー活動の一端を担う。売り上げ目標は、10年後の年商50億円。田中さんは、会社を支えてきた成熟事業の刷新と、縮小する日本市場でエコ製品市場の創造に挑戦する。
新たな第三者の視点
「わが社の技術を見て、『もっと他の市場に転用できるはずだ。これほどの技術を埋もれさせていたのは、君たち若い世代の罪だ』とズバリ言われました」。長年、包装業界を引っ張ってきた人の、新たな第三者の視点だった。
「実は、わが社が開発している製品の多くは、これまでの技術を発展させたものなんです。製品を作っている我々がそのことに全く気付かずにいたのを、その人に指摘されたんです」
田中さんは、最後にこう言った。「入社当初は、第三者の視点から半導体市場を見つけることが出来ました。でもまだ〝本当の自分たち〟を分かっていないのかもしれません。その人には、今でもお会いするたびに怒られています」
田中さんは、もっともっと事業を発展させることが、その人への一番の恩返しだと思っている。
※(モーレツ)
高度成長期の1969年から「モーレツ社員」はじめ、「モーレツ」が流行した。
田中 秀和 | たなか ひでかず
- 1965年 東京都稲城市生まれ
1989年 成城大学経済学部卒業、巴工業株式会社入社
1996年 巴工業株式会社退社、日生化学株式会社入社
2009年 日生化学株式会社 代表取締役社長就任 - 写真
日生化学株式会社
- 所在地
- 東かがわ市馬篠1番地
TEL 0879-25-3201 - 設立
- 1979年
- 代表者
- 田中 良治
田中 秀和 - 資本金4400万円
- 売上高
- 約20億円
- 社員数
- 82名
- 取扱商品
- プラスチックフィルム製品
- 沿革
- 1967年 日生工業株式会社設立、数年後にショッピングバッグ事業進出
1972年 食品包装資材生産開始
1979年 日生化学株式会社設立
1996年 電機半導体パッケージ生産開始
1999年 日生グループ本社新工場完成、旧白鳥町から現住所東かがわ市馬篠へ全面移設
2009年 日生化学株式会社 代表取締役社長に田中秀和が就任
2010年 日生化学株式会社と日生工業株式会社は合併し、日生化学株式会社としてスタート
- URL
- http://www.nissei-grp.com/
- 確認日
- 2018.01.04
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