
「うどんは、小麦粉に塩と水を混ぜて作りますよね。コンクリートは、セメントに混和剤というものと水などを混ぜて作るんです。水が多ければもろくなり、少なければ強固なものになります。うどんと同じで、材料のバランスが肝心なんです」
高松で中学、高校と過ごした林さん。阪神淡路大震災をきっかけに、インフラ整備に貢献できる仕事をしたいとの思いが強くなった。その後、大学で出合った論文に大きな影響を受けた。うどん打ちからヒントを得て、コンクリートを練る技術を考えるという内容で、前田又兵衛氏の研究だった。前田氏は文系出身ながらも独自の着眼点で研究を行い、東京大学から工学博士の学位を授与された人物だ。
「耐久性は、コンクリートの強度と緻密性の両輪で成立しています。良い材料と適切な施工が重要。コンクリートを丁寧につき固める、急激に乾燥しないよう『養生』するといった手間が仕上がりに影響します」。コンクリートの緻密性が低い「スカスカ」の状態だと、中の鉄筋が空気や水に触れてさびやすくなる。
母校で研究を続けていた林さんに転機が訪れたのは、ある委員会に参加した2007年のこと。そこでは研究者が、コンクリート構造物の品質をチェックするさまざまな方法を探っていた。林さんは、細田暁准教授(横浜国立大学)が進めていた非破壊試験装置の改良を手伝ううちに、いつの間にか開発にのめり込んでしまった。
コンクリートの耐久性を調べる方法は、破壊試験と非破壊試験の二つ。主な破壊試験は、構造物に穴を開けてサンプルを取り出し、実験室で分析する方法。構造物を傷つけることに、抵抗を感じる人も少なくない。
次第に、検査装置を作ることの重みや期待を感じるように。「自分のやってきたことが世の中の役に立つ。これが土木工学のロマンだ」と奮い立った。
水を使う非破壊試験装置だ。壁面にカップを取り付けて水を注ぎ、コンクリートがどれだけ吸水したかで、緻密性を評価するもの。水を使う非破壊試験装置を完成させたのは、国内初のことだった。
装置を取り付ける際、壁面に跡が残らないよう構造を工夫したほか、器具の固定方法や、正確な値を測るため注水時間の短縮など試行錯誤の末、完成までたどり着いた。昨年から一般販売を開始し、販売実績は現在10社程度。試験は全国各地で行っており、県内では高松自動車道で実施している。
現在の装置は、道路や橋梁など平面に対応するものだが、トンネル内面など曲面にも取り付け可能なものを開発中だ。「コンクリートで世界を救うと言ったら大げさかもしれませんが、世界につながる研究だと思っています。インフラ整備を必要とする国で役立てば。もちろん、地元にも貢献したい」

林 和彦 | はやし かずひこ
- 1976年6月 和歌山県生まれ
1995年3月 香川県立高松高等学校 卒業
1999年3月 横浜国立大学工学部建設学科 卒業
2001年3月 横浜国立大学大学院工学研究科 修了
2001年4月 横浜国立大学 助手
2007年4月 同 特別研究教員
2010年3月 博士(工学)の学位取得
2013年3月 香川高等専門学校建設環境工学科 准教授
- 写真
香川高等専門学校
- 所在地
- 高松市勅使町355
- TEL
- 087-869-3811
- 確認日
- 2018.01.04
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