「雑草ゴミ」からライフワークを見つけた。

山和土木興業 代表取締役 山西 和雄さん

Interview

2009.09.03

刈り取った雑草はゴミだ。焼却しなければならない。高速道路で雑草を刈り取る仕事をしていた土木会社が、この雑草ゴミを堆肥にした。
堆肥の事業化は難しい。「売ろうと思ったら失敗すると専門家に言われました。まず学校や幼稚園、園芸家に使ってもらいました。それから、雑草堆肥を使ったベランダ菜園『サプリ菜』キットを発売しました」。気負いなく淡々と語るのは、信念と目標があるからだ。
雑草堆肥から農業へ。環境へ。福祉へ。共生の輪を広げたい・・・山和土木興業(株)社長で山西農園のオーナー山西和雄さん(55)は、雑草からライフワークを見つけた。

※(サプリ菜)
サプリメントから名付けた山西農園の登録商標

燃やす費用が数百万円

山和土木興業は、県東部で高速道路のり面の雑草を刈り取っている。雑草は90%が水分で、油を使わないと燃えない。年間100トンにもなる雑草の焼却経費は数百万円にもなる。「二酸化炭素も発生しますから良いことは一つもありませんでした」

そこで2001年、堆肥作りに取り組んだ。雑草に米ぬかや酵素などを混ぜ、2年かけて発酵熟成させる技術を開発した。
小学校や幼稚園に使ってもらった。「雑草堆肥で奇麗な花が咲いているという記事が新聞に載って、園芸愛好家が次々取りに来るようになりました」

しかしそれだけでは、堆肥がさばけない。余った分は、雑草同様ゴミになる。積極的な利用方法を考えた。

雑草堆肥から農業へ

2008年、農業法人山西農園を設立。1800m2のガラス温室で、有機野菜の試験栽培を始めた。耕作放置地を再生したり、新規就農者を育成したりして、有機自然農法を展開しようという構想だ。

ある日、山西さんは、ホームセンターの園芸売り場で、「サラダセット」(7種類の、サラダ用野菜の種の袋詰)を見つけた。閃めいた。
「サラダセット」の種を雑草堆肥にまいたら、発芽して2、3週間ほどで青々と育った。「容器の発泡スチロールには、排水用の穴はありません。夏なのに水が腐りませんでした」。発酵熟成した堆肥は、微生物が増殖して水も腐らないし、病原菌類の活動を抑えて、耐病性の高い健全な作物を育てる。
「生ごみリサイクルによる元気野菜作り」の普及活動をしている吉田俊道さんに、「スプラウトの栽培に向いている」とほめられた。

ベランダでスプラウトを栽培できる「サプリ菜」キットの販売を9月から始めた。

※(吉田俊道)
NPO法人「大地といのちの会」理事長。有機農業家。佐世保市を拠点に「大地といのちの会」を結成。2007年、総務大臣表彰(地域振興部門)、2009年、食育推進ボランティア表彰(内閣府特命担当大臣表彰)を受けた。

※(スプラウト)
食用植物の新芽の総称。ビタミンやミネラルが豊富で、成長した野菜よりも効率的な栄養摂取が可能とされる。

予兆を敏感に感じる

「サプリ菜」はなかなか売れなかった。雑草を堆肥にしても、農業までつなげないと事業は展開できない。気がついた。
「事業化にはエネルギーがいります。インターネットで情報発信しても、順位が上位でないとアクセスは増えません。ソフトを作るのに何十万円もかかります」

ところが今年、「コープ自然派」の商品カタログ「ポスティ」の7月号に掲載したら売れた。「1回の掲載で1000個も売れました。世の中はすべて実績です。この数字が次のスタートへ、背中を押してくれました」
事業には壁を越える予兆が必ずある。山西さんは敏感だ。そのきざしを見逃さない。「1000個のサプリ菜キットを作って、荷造り、配送するのに、6人の従業員が1週間ほどかかります。この作業を、授産所に一緒にやりましょうと呼びかけたら問い合わせが多いんです」

雑草堆肥から農業へ、環境へ、福祉へとつなげる事業展開の第一歩を踏み出した。

※(コープ自然派)
同じ理念のもとで協力、運営する関西・四国地方を中心とした10の地域生協。「高い安全基準を持った商品を取り扱う」としている。

※(授産所)
身体障害者や精神障害者、家庭の事情で就業や技能取得が困難な人に、就労の場や技能取得を手助けする施設。大きく分けて法定授産施設と小規模授産施設の2種類がある。おもに社会福祉法人などの団体によって設置、運営されている。

「儲からない」から失敗しない

山和土木興業は、土木事業の他に、高速道路の保全作業、物損保険の補償工事、有害物質の除去や浄化槽の管理など環境事業の部門がある。
1988年、33歳のとき、山西さんは勤めていた会社を辞めて独立した。3年で、倍々ゲームのように会社を大きくしたが、その時危機感を持った。
「儲かる仕事は、必ずライバルが現れて競争が激しくなります。儲かるから失敗する。儲からない仕事は、知恵と工夫があれば生き残れると思いました」

山西さんは、高速道路の保全管理を引き受ける時に考えた。「先進国では、メンテナンスが70~80%で、道路建設工事は少ないそうです。日本も、高速道路の拡張はいつまでも続きません。もうすぐ保全や修理がメーンになります。雑草の刈り取りは手間が掛かりますが、土木工事が少ない時は、余った人手を配置できますからメリットがあります」 山西さんは知恵と工夫で道を開く。もう一つある。「あきらめるから失敗するんです。やり続けると失敗はありません」…念ずれば花開く。あきらめないから道が開ける。だから面白い。

ライフワークを見つけた

雑草ゴミを堆肥にした。堆肥のおかげで農業ができる。農業を通じて環境や福祉に貢献できる。
「あきらめなければ共生の輪は広がります。山の頂上にあるという『幸せ』は、自分の足元にもあります。頂上ばかり見ているから気がつかないだけです」

儲けない。あきらめない。人生の道のりは自分がつくるもの。山西さんは、雑草から、「最後のライフワークだ」と言う「幸せ」を見つけた。


山西さんは、自分に協調性があまりないと言う。「朝5時半に起きて瞑想(めいそう)します。夜はほとんどテレビを見ませんから、ご飯を食べたら寝るまで本を読みます。独りになる時間を大事にしています」

独立して1年。まっ暗な闇の中を、おびえながら手探りで進んで行く夢を見た。
「僕は中学でも高校でもけんかで負けたことがない。自分は強い人間だと思っていたのに、こんな情けない夢を見てショックでした」。その夢が転機になった。滝に打たれ、瞑想して、カーネギーからナポレオンヒル、中村天風、安岡正篤など啓発書をむさぼるように読みふけった。それが今も続いている。

「人と違いがあるから共生できる」とも言う。「面白くない人とは飲みに行かないでしょう。こいつはおもしろい。いつもそばにいたい。こいつと何かをやりたい。そういう人たちと共生するんです。そして、自分に足りないものを補う。自分のレベル以上の者は集まらないから、自分を磨きます。これからは知恵と工夫と共生です。『君はこういうパートができるのか、できなければ去ってくれ』というような社会だと思います」

山西 和雄 | やまにし かずお

略歴
1953年 東かがわ市(旧大川郡大内町)生まれ
1972年 県立津田高校卒業
1974年 国土建設学院卒業
    富士測量(株)入社
1978年 東洋土木興業(株)入社
1988年 山和土木興業(株)創業
2008年 山西農園設立
2011年 さぬきのムムム 自然栽培農場設立
写真
山西 和雄 | やまにし かずお

株式会社 山西農園

住所
香川県東かがわ市西村520-1
代表電話番号
0879-25-7717
設立
2008年
事業内容
野菜の生産、スプラウト栽培セット「サプリ菜」の生産・販売
地図
確認日
2009.09.03

山和土木興業株式会社

所在地
東かがわ市西村443−1
TEL
0879-24-1530
事業の概要
土木一式工事・建築一式工事・水道施設工事
緑化工事・電気工事の設計施工
産業廃棄物の収集・運搬・処理 など
資本金
2,000万円
社員数
23名
確認日
2018.01.04

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