地域のために「想像力」を働かせる

西日本高速道路エンジニアリング四国 社長 北田 正彦さん

Interview

2019.09.19

道路性状測定車「イーグル」などの点検車両を背に  =高松自動車道・高松中央IC近くの西日本高速道路高松工事事務所(高松市林町)

道路性状測定車「イーグル」などの点検車両を背に

=高松自動車道・高松中央IC近くの西日本高速道路高松工事事務所(高松市林町)

届いた一通の手紙

7月に全面復旧した高知自動車道の立川橋付近。  上が通行規制されていた上り線

7月に全面復旧した高知自動車道の立川橋付近。

上が通行規制されていた上り線

「地域にどれだけ役に立てるか。地域に応えるために我々はここにいるんです」

6月、四国の高速道路の点検やメンテナンスなどをする西日本高速道路エンジニアリング四国(エンジ四国)の社長に就いた北田正彦さん(60)は、「地域のために」と何度も繰り返す。

強く再認識した出来事があった。2016年に発生した熊本地震。当時北田さんは、親会社の西日本高速道路の九州支社長だった。九州の高速道路は土砂や橋梁の損傷で寸断。社員やグループ総出で復旧作業にあたり、3週間余りで通行止めを解除、1年後には完全復旧した。昨年、一通の手紙が支社に届いた。

『めくれ上がったアスファルト、亀裂、陥没……恐ろしい光景が広がっていたが、たくさんの作業者と技術者が昼夜を問わず一生懸命に作業を進めてくれた。高速道路が徐々に復旧していく様子にどれだけパワーをいただいたか。私たちも生活再建を頑張らねばと勇気づけられた。美しく生まれ変わった熊本の高速道路は芸術作品だと思う』

九州道をよく利用する女性ドライバーからの感謝の手紙。「こんなにうれしいことはなかった」と北田さんは頬をゆるめる。

関西勤務時代には阪神淡路大震災も経験した。昨年の西日本豪雨で大きな被害を受けた高知道は7月に通行規制が解除されたばかりだ。「復旧工事では地元の業者も最前線に立ってくれる。災害を経験するたびに『地域と共に』『地域を大切に』という気持ちが高まっていきます」。安全性や定時性など高速道路に求められるニーズは不変なもので、その機能を担保するために、「さらに技術力を磨き、発揮していかなければならない」と口元を引き締める。

小さな町の大プロジェクト

地元住民らで賑わう「ゆとりすとパークおおとよ」のイベントの様子  =高知県大豊町

地元住民らで賑わう「ゆとりすとパークおおとよ」のイベントの様子

=高知県大豊町

「15年ぶりの地元四国での勤務。身が引き締まる思いです」

北田さんは四国と縁が深い。出身は三豊市高瀬町。観音寺第一高校に進み、「当時は瀬戸大橋建設の機運が高まり始めた頃。将来は何か大きなものをつくる仕事がしたい」と徳島大学工学部へ。1981年の日本道路公団入社後は2度、高知県の工事事務所で勤務した。最初の赴任時は、大豊町と南国市を結ぶ高知初の高速道路の開通に現場担当として携わり、2度目は大豊IC(インターチェンジ)ー南国IC間の4車線化を工事事務所長として見守った。

「会社の同期からは『地元四国の高速道路建設に携われるなんて幸せだね』とうらやましがられました。本当にその通りです」

大豊町は、吉野川流域の四国山地中央部に位置し、町の面積の9割を森林が占める。山あいの小さな町に「高速道路をつくる」という大プロジェクト。地元住民や町役場の担当者らと侃々諤々議論を重ねたり、花見や祭りで酒を酌み交わしたりした思い出を懐かしそうに話す。「『高速道路が冥途の土産になる』とまで言って喜んでくれたお年寄りもいました。大豊町には今も愛着があり、高知道を走ると当時を思い出しますね」

エンジ四国は大豊町で、キャンプやアクティビティーなど自然を満喫できるレジャー施設「ゆとりすとパークおおとよ」や、「道の駅大杉」の運営、ブルーベリーやシイタケを栽培するアグリ事業も手がけている。「高速道路を本業としながらも、地域と連携し活性化にも貢献できればと思っています」

「技術力」+「想像力」

「技術力を磨き、発揮し、高速道路の機能を担保する」  =西日本高速道路エンジニアリング四国本社(高松市花園町)

「技術力を磨き、発揮し、高速道路の機能を担保する」

=西日本高速道路エンジニアリング四国本社(高松市花園町)

高速道路を通行止めにすることなく、走行しながら路面のひび割れやわだちの深さを高感度カメラで測定する点検車両「イーグル」、赤外線による画像解析で道路や橋脚の損傷を見つける「Jシステム」、遠赤外線ヒーターを使ってトンネル内の老朽化したタイルを効率良く撤去する手法など、エンジ四国は斬新な点検・補修技術を次々と開発している。

「目の付け所が良く、私たちが目指す『道路総合保全技術会社』としてのDNAが順調に育っている。とても頼もしい社員たちです」

国が点検に関する新技術をまとめた「点検支援技術性能カタログ(案)」に「Jシステム」が掲載されるなど、“エンジ四国の技術力”は四国内にとどまらず、全国で注目を集めている。

北田さんは社長就任直後、社員らにこう呼び掛けた。「想像力を働かせてほしい」

直面している課題は何なのか、発生しうるリスクは何なのか、お客さんが本当に必要としているものは何なのか……「解決するために必要なのが『想像力』だと思う。お客さまの目線に立ち、想像力に磨きをかけていってほしいと強く願っています」

国交省は今月、事故防止や定時性確保のため、現在2車線で運用している有料の高速道路の半分以上を、将来的に4車線に広げる方針を決めた。北田さんは「九州道や高知道が今回の災害時、すぐに『2車線対面通行』の応急処置で通行止めを避けられたのは、被災した区間が『4車線化』されていたから」と話し、こう加える。「道路、鉄道、航空……高速交通インフラが充実すればするほど地域間の交流人口は増える。交流人口が増えれば仕事や雇用が生まれ、定住人口も増えていきます」

技術力に想像力をミックスすることで高速道路がより機能する。そして、地域の人口減少に歯止めがかかる。北田さんは、そんな未来を想像している。

篠原 正樹

北田 正彦|きただ まさひこ

略歴
1959年 三豊郡高瀬町(現三豊市)生まれ
1977年 観音寺第一高校 卒業
1981年 徳島大学工学部 卒業
     日本道路公団(当時)入社
2004年 高知工事事務所長
2015年 西日本高速道路株式会社 九州支社長
2017年 西日本高速道路メンテナンス九州株式会社 代表取締役社長
2019年 西日本高速道路エンジニアリング四国株式会社 代表取締役社長

西日本高速道路エンジニアリング四国株式会社

住所
香川県高松市花園町三丁目1番1号
代表電話番号
087-834-1121
設立
1992年10月27日
社員数
402人(2019年4月1日現在)
事業内容
高速道路の建設・維持管理に係る構造物及び設備等の調査・設計・施工管理・点検・補修工事 他
資本金
6000万円
地図
URL
http://www.w-e-shikoku.co.jp/
確認日
2019.09.14

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