点検する技術 新たなビジネスの領域へ

西日本高速道路エンジニアリング四国 社長 保崎 康夫さん

Interview

2015.06.04

鮮やかな黄色でカラーリングされた特殊車両「イーグル」は、高速道路を時速100キロで走りながら路面のひび割れや轍(わだち)の深さを調べることが出来る。西日本高速道路エンジニアリング四国が開発した最新鋭の点検車だ。

「点検データを蓄積していけば、道路や橋がこれからどのように壊れていくのかも予測出来ます」

エンジニアリング四国は、親会社の西日本高速道路(ネクスコ西日本)からの発注で四国内の高速道路の点検・補修を行ってきた。だが、その活躍の場は今では四国の枠から完全に飛び出している。全国各地の高速道路や、さらには海外の道路関連会社までもがエンジニアリング四国の技術を欲している。

高度成長期に集中して造られたコンクリート構造物はこれからメンテナンスの時代に入っていく。昨年6月に社長になった保﨑康夫さん(61)は、培ってきた自慢の技術力で、安全・安心を求める時代のニーズに応えていく。

最新技術で点検作業を効率化

「あってはならない事故でした」。2012年12月、山梨県の中央自動車道笹子トンネルで天井のコンクリート板が崩れ落ち、走行中の車が巻き込まれて9人が亡くなった。「あのような事故が起こらないようにするためには、やはり点検です。精度の高い点検を見逃しが無いようにやっていけば事故は防げます」

走行しながらトンネルの状態を測定する点検車両「イーグル」  赤外線を使う「Jシステム」は地上から高所構造物を診断出来る

走行しながらトンネルの状態を測定する点検車両「イーグル」

赤外線を使う「Jシステム」は地上から高所構造物を診断出来る

最新鋭の点検車両「イーグル」は、高感度のセンサーカメラで道路の状態を測定していく。例えば路面のひび割れの場合、ある範囲内にどれだけひびが入っているのか(ひび割れ率)を平面的に調べるものはこれまでにもあった。イーグルは斜めから光を当てて影を付けることで、立体的な測定を可能にした。「損傷の深さが1センチなのか2センチなのか、正確に調べられます。深さが分かれば補修の必要があるのかないのか、まだ大した傷みではないのか、そこまで弾き出せます」

保﨑さんは作業の効率化を追求する。道路の点検と言えば、深夜に通行止めや車線規制を敷いて行うのが一般的だ。しかし、イーグルは「走行しながら」測定出来るため、通行止めにする必要は無くなる。手作業でひび割れや轍の状態を調べていた手間も大幅に軽減出来る。

赤外線を使う「Jシステム」は、コンクリート内部の温度や熱流を画像解析し、空洞の有無やコンクリートが浮き上がったり剥がれたりしている箇所を見つけ出す。これまでは高さが数十メートルもある道路や橋は点検困難箇所とされ、大掛かりな足場を組まないと調べられなかった。Jシステムだと45メートル先の構造物を離れていながら測定出来る。現在は、さらに90メートル先まで診断出来るよう開発を進めているところだ。「点検データはタブレット端末からデータベースにリアルタイムで送られるため、損傷の程度によってはすぐに補修が必要だとその場で判断することも出来ます」

技術力で広がる可能性

2005年の日本道路公団の民営化に伴い、西日本の高速道路はネクスコ西日本が管理・運営している。このうち四国エリアの保守を任されているのが西日本高速道路エンジニアリング四国だ。現在、売上の約9割はネクスコからの仕事が占めるが、保﨑さんには、四国内での仕事、ネクスコからの仕事だけに留まる考えは無い。

「これから点検のボリュームはどんどん増えていきます。新たな領域にも踏み出して、親会社のネクスコとも対等な立場に持っていきたい。それが大きな目標です」

新たに開発した点検技術は既に、東名高速、中央道、東北道など全国各地の高速道路で使われている。中国やシンガポールの道路関連会社、インドネシアの港湾施設やアメリカの道路関係機関からも「傷み具合を調べられないか」と問い合わせが来ている。「コンクリートを使っている構造物なら何にでも応用出来る技術だと思います」

現在の国の点検基準は、ひび割れなどの損傷を人が間近で確認する「近接目視」と、コンクリートをハンマーで叩いて音の変化で空洞などを見つける「打音検査」だ。高感度カメラや赤外線による点検はまだ正式には認められていないが、実験を重ねて精度を上げ、国のお墨付きがもらえるよう働きかけている。

「ハンマーで叩くのは作業員の主観も入ります。客観的なデータで示す私達の技術は非常に精度が上がっていて自信があります」

昨年7月には、国が道路や橋の老朽化対策として5年に1度の頻度で点検するよう管理する自治体に義務付けた。点検必要箇所は全国で膨大になる。

「点検には時間もお金もかかります。効率よく低コストで点検する技術を県や市に販売していく。国が『この技術で点検してもいい』と認めてくれれば、可能性がぐっと広がると思っています」

全ては現場から生まれる

「道は、物を運び、人の出会いを生む。そういう大きなものを造りたかったんです」

大学卒業後、日本道路公団に入り、技術者として全国の高速道路建設を手掛けてきた。地元住民の反対運動も何度も経験したが、乗り越えられたのは、その道が絶対に必要だという信念があったからだと振り返る。

「小さな町の真ん中を通る高速道路が、地元に大きなメリットをすぐにもたらすかと言われれば、そうではないかもしれません。でも、高速道路は日本の将来にとってとても大切なネットワークになる。相手の立場を尊重しながら時間をかけて説得していきました」

公団民営化当時は広報の責任者として、公団の体質を批判するマスコミ対応などの矢面に立った。「過去の様々な経緯を説明してもなかなか分かってもらえない。とてもつらかったですが、今思えば貴重な経験でしたね」

造る側から維持・管理する側へ立ち位置はがらりと変わった。だが、「これからは点検し補修していくことが重要になる。実は何年も前から保全系の仕事をしたいとずっと希望を出していたんです」

保﨑さんは何よりも現場を重視する。新たな技術や発見は、現場を分かっていないと生まれないという考えからだ。

橋梁に張り付けて剥がれ落ちたコンクリート片を受け止めるネット「スマートメッシュ」は、景観に配慮したデザインになっている。LEDのトンネル照明「NECOL(ネコル)」は、路面だけでなく前方を走る車の背面も照らすことでドライバーの安全性が向上した。次々と生まれる新商品は、全て現場で見つかった問題点が強く反映されている。

「私も現場が好きですし、私達の会社は特に現場あっての会社です」。保﨑さんには目指す会社像がある。

「効率的な点検をしてベストな対策を提案する。それを監督して最適な状態を保っていく。そんな『道路総合保全技術会社』に一歩ずつ近づきたいと思っています」

◆写真撮影 フォトグラファー 太田 亮

保崎 康夫 | ほざき やすお

1953年 大阪市生まれ
1978年 大阪大学工学部土木工学科 卒業
    日本道路公団 入社
1999年 千葉工事事務所長
2004年 総務部広報・サービス室主幹
2007年 西日本高速道路 CS推進部長
2008年 海外プロジェクト推進部長
2010年 東京支社長
2012年 技術本部長
2014年 西日本高速道路エンジニアリング四国 代表取締役社長
写真
保崎 康夫 | ほざき やすお

西日本高速道路エンジニアリング四国株式会社

住所
香川県高松市花園町三丁目1番1号
代表電話番号
087-834-1121
設立
1992年10月27日
社員数
402人(2019年4月1日現在)
事業内容
高速道路の建設・維持管理に係る構造物及び設備等の調査・設計・施工管理・点検・補修工事 他
資本金
6000万円
地図
URL
http://www.w-e-shikoku.co.jp/
確認日
2019.09.14

記事一覧

おすすめ記事

メールマガジン登録
メールマガジン登録
ビジネス香川Facebookページ