“普通の感覚”を忘れない

四国地方整備局長 小林 稔さん

Interview

2020.02.06

大学2年で専攻を決めるとき、最初は全く意識していなかった土木系の学科に進み、大学院では流体力学・水文(すいもん)学を学んだ。卒業後、建設省に入省してからキャリアのほとんどを、「河川」に関する仕事に携わってきた。水害、土砂災害から生命や財産、生活を守るために堤防、ダムなどの整備、河川の流れを付け替えるといった事業を行う。「仕事をする上で、防災の視点は欠かせません」

防災事業は、例えば大雨が降ったとしてもニュースになるようなことが何も起こらないのが理想。「縁の下の力持ちなので、どんな仕事をしているか伝わりづらい部分はあります。でも、かかわったダムが完成直後に大雨のため1日で満水になったときは、自分の仕事が間違いなく役に立ったという実感がありました」

25年ほど前、「浸水想定区域図」を出そうとしたところ、地域に人をよびたいと考える市町村は積極的ではなく、不動産関係者からは「地価が下がるのでは」と懸念され、マスコミも好意的ではない。図面を出すだけで苦労したという。「それが今では、ハザードマップを出すのは当たり前。マスコミも『なぜハザードマップがないんだ』という論調です。社会全体の防災意識が高くなってきている。いいことです」
四国横断自動車道「阿南~徳島東」事業の現場で

四国横断自動車道「阿南~徳島東」事業の現場で

長年、防災事業にかかわってきて思うのは、堤防やダムを整備しても、ハードだけでは限界があるということ。大事なのは一人ひとりの意識。「地域のリスクを知って、何かあれば逃げられる準備をしてほしい」。そのための情報提供ができるよう、水位計や河川カメラの設置、データ解析などを進めながら、地道に意識啓発を続けたいという。

いろんな人がいた方がいい

レフトとして活躍(ナンバー4)

レフトとして活躍(ナンバー4)

中学から大学までバレーボール部に所属し、そのすべてでキャプテンを経験した。大学では、練習内容、練習試合の相手、合宿の場所といったことをキャプテンが中心となって決めなければならない。「先輩の中にはぐいぐい引っ張っていくリーダーもいましたが、自分はそんなタイプじゃない。だったらどうしたらいいのか。当時悩んだことや経験は今、マネジメントやコミュニケーションの面で役に立っているかもしれません」

職場でも、強いタイプの上司が多かった。「でも、必ずしも一つのお手本を見習う必要はないんです」。いろんな人間がいてこそ、組織は強くなれるし環境変化に耐えられる。「与えられた環境で、どうすればいいか考えながらやってきた結果、今の自分がある。若い人は自分のタイプを見極めて長所を突き詰めていってほしいですね」

先輩の言葉

国営讃岐まんのう公園リレーマラソンに参加

国営讃岐まんのう公園リレーマラソンに参加

組織のトップとして赴任した現在、先輩の言葉を時々思い出すという。「入省してすぐのころ、『仕事をする上で違和感をもつことがあると思う。それを忘れるな。キャリアを重ねてそれを改善できる立場になったら考えて行動するんだ』と言われました」。事業で大きなお金を動かしていると感覚がずれてくる。防災の大切さを伝えるときに専門用語を使ってしまう。そうではなく“普通の感覚”をもち続けるよう自分を戒めているという。

「今はおかしいと思うことを変えないといけない立場になりました。若手の意見も積極的に聞いていきたいと思います」

小林 稔さん | こばやし みのる

略歴
1964年 北海道生まれ
1982年 北海道立岩見沢東高校 卒業
1988年 北海道大学大学院工学研究科 修了
    建設省 入省
1998年 建設省河川局砂防部砂防課長補佐
2001年 国土交通省中部地方整備局庄内川工事事務所長
2009年 北海道運輸局企画観光部長
2011年 四国地方整備局徳島河川国道事務所長
2017年 関東地方整備局河川部長
2018年 水管理・国土保全局防災課長
2019年 四国地方整備局長

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