「学びの経営」が 会社と自分を育てる

KSB瀬戸内海放送 社長 加藤 宏一郎さん

Interview

2014.05.15

「痛みを伴う改革に、社員はよく耐えてくれました。若い人たちは意欲的に吸収してくれました」。よそ者、若者の目で、会社の課題を見つけた。年功序列を能力主義に変え、ポストを減らして効率化した。試行錯誤して、業界で有数の高収益率を達成した。

香川・岡山両県という限られた市場で、民放5局が視聴率とCM売り上げを競っている。各局共にデジタル化を乗り越えたものの、衛星放送やCATV、インターネットなど、メディア競合は激化し、経営基盤は急激に変化している。

KSB社長の加藤宏一郎さん(49)は、社員教育費を倍増するつもりだ。自分が見つけた学びのおもしろさを、社員と共有するためだ。

「それが、企業が発展するためのメカニズムを創る」。学ぶことで自分自身と会社を変えた加藤さんのポリシーだ。
背景は、社屋とウッドデッキのアプローチでつながる社員食堂「百菜家」。2002年、「くつろげる場で健康に良い食事を社員に提供する」ために建てられた。メニューは無農薬の発芽玄米や地元産の野菜が中心=高松市西宝町

背景は、社屋とウッドデッキのアプローチでつながる社員食堂「百菜家」。2002年、「くつろげる場で健康に良い食事を社員に提供する」ために建てられた。メニューは無農薬の発芽玄米や地元産の野菜が中心=高松市西宝町

会社は「舞台」

経営者とは何者なのか。統治者であり、指導者であり、改革者であり、直観する人であり、何より学ぶ人だ。

大きな成果を出すのは常に少数だが、多数とのギャップを埋め、つなぐことで初めて、会社全体のパワーが倍増して持続する。

それを可能にするのは、経営者の行動と言葉の力だ。自分をさらけ出せば、社員と心は通う。そのために経営者は俳優にもなる。

加藤さんは社員たちとの研修に即興劇のワークショップを取り入れている。会社は舞台だ。経営者と社員は、俳優にも演出家にもなる。

ワークショップ
参加者全員の共同作業による、学びや創造、問題解決のトレーニング方法。

揺れ動くマネジメント

「最初は成果に焦点を当てていました」。業績は伸びたが、疎外感を持ち始めた社員が出てきたことにも気づいた。

「マネジメントの転機になりました。成果の評価は大事ですが、社員みんなに出番とやりがいがないと、会社の成長は持続できないと分かったんです」

管理と自律。矛盾する両極の間を揺れながらマネジメントは成長した。コーチング手法で若手リーダーが育った。

さらに、即興劇やドラムをたたく体験研修に取り組んだ。社員一人一人の成長をより促し、自律的に成長する組織をつくるためだ。

「経営学を勉強したわけではないのに、15年の経営を振り返ると、試行錯誤してきたマネジメントは教科書と同じことをやっていました」

上意下達のディクテイターから方向性を示すディレクターへ、サポートする立場のファシリテイターへ、調和的な統合、オーケストレーションへ、スタイルが変わった。

4段階の変化は、昨年の3月まで香川大学大学院地域マネジメント研究科教授だった、八木陽一郎さんから教わったリーダーシップ理論の通りだった。

コーチング
人材育成の手法。相手の話をよく聴き、感じたことを伝えて承認し、質問することで、自発的な行動を促す。

学びの「気づき」と「メカニズム」

高校時代は東大を目指して勉強した。人に負けたくない気持ちや、先生の期待に応えるためだった。

「勉強の楽しさがわからないまま大学に入ったら、学問が手につかなくなりました。しかし社会に出ると、常に学んでいないといい仕事が出来ません」

必要に迫られて、経理や財務、組織や人事制度、マーケティングや戦略を勉強した。人との出会いもあった。

セミナーやワークショップの場で経営者の話を聞いた。目からうろこの気づきがあった。会社で試してみると、うまくいく場合もいかない場合もあった。それがまた新しい気づきになった。

学びが役に立って会社の業績が上がった。成果が出ると達成感があった。

「学生時代は義務感で勉強していたのに、いつのまにか学ぶことが人生の喜びだと感じる自分がいました」

経営学の理論はデータや事実に裏付けられている。批判に耐えて確立した公式理論だ。

理論を学べば、仕事の試行錯誤を振り返って次にどうするか考えることができる。

理論を学んでも、実践しなければ役に立たない。しかし、仕事だけでは、交流範囲が限られる。新しい発想が身に付かない。学んで行動する。行動して学ぶ・・・・・・それを繰り返して人は成長する。

過去の実践から導き出された理論は、未来への伝道師だ。学びの面白さとメカニズムを社員と共有出来たら、一人一人が創造性と自主性を発揮できるようになる。加藤さんの直観だ。

これからが課題

「この10年ほど、新しいビジネス、総合ローカルメディアを一緒に作ろうと呼びかけて社員を採用してきましたが、まだ道半ばです」

テレビ事業では競争力のある会社になった。しかし、放送業界の発想で新しいビジネスを考えてもうまくいかない。

自分が作り上げたものを壊すのは難しい。会社を変えてきた立場が、変えられる側になってきた。

「社長になって15年、新鮮な視点を持つのが難しくなりました。経営者としての自己革新を問われるのは、これからです」

モデルのない事業を目指す

「最近、ネットのベンチャー経営者とお付き合いを始めました」。新しい事業のために、改めて経営学や起業理論を学び始めた。

テレビ、ラジオ、インターネット、モバイルと紙媒体やイベントなどを統合する事業に挑戦するのはこれからだ。

「岡山香川エリアに密着しているテレビ局の特性を、インターネットやモバイルと結びつけて、地域のニーズに貢献する事業です」。慎重に言葉を探しながら語った。

インターネットには、コミュニティーを支援するビジネスや、生活情報を提供するさまざまなビジネスがある。しかし地産地消で完結するネットビジネスはモデルがない。

加藤さんは地方テレビ局の飛躍的な革新を目指して、社員と共に学び続ける。

加藤 宏一郎 | かとう こういちろう

1965年 高松市生まれ
1988年 東京大学経済学部卒業
    三菱商事入社
1991年 三菱商事退社
    瀬戸内海放送入社
1995年 専務取締役就任
1997年 副社長就任
1999年 代表取締役社長就任
    現在に至る
写真
加藤 宏一郎 | かとう こういちろう

KSB瀬戸内海放送

所在地
高松市西宝町1-5-20
TEL:087-862-1111
設立
1967年11月
資本金
2億5000万円
代表者
代表取締役社長 加藤 宏一郎
従業員数
87名(2013年4月1日現在)
売上高
64億3864万円(2013年3月期)
事業内容
岡山、香川をサービスエリアとする民間テレビ局
確認日
2018.01.04

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