古典というと古めかしいイメージで、ビジネス本やハウツー本のように、実生活ではほとんど何の役にも立たないかも知れません。それでも読む本の中から何冊かの内一冊くらいは古典を手に取ってほしいと思います。
ところで古典とは何でしょう。著者が言うように百年前にも読まれ、百年後も読まれる本であり、それは無数に書かれた本の中から生き残ったものなので面白くない訳がありません。この本の著者は光文社で古典新訳文庫というシリーズを立ち上げ10年にわたり編集長を務めた方です。「いま、息をしている言葉で」をキャッチフレーズに古典を新訳して文庫本として世に出すというものです。
米川正夫で親しんだ「カラマーゾフの兄弟」の亀山郁夫訳や、悟性や格率といった哲学の専門用語を使わずに普通の言葉でカントが話しかける中山元訳の「純粋理性批判」など、出版時に話題になった本もあります。しかし翻訳は、ただ分かりやすければいいという単純なものでもありません。
著者は、今はもう廃刊になった「週刊宝石」の創刊に参加。そこでは週刊誌の編集部といえども、美人ママのいるお店を毎週紹介している先輩デスクの机には、毎月岩波の「文学」や「思想」が届いていたし、マージャンばかりしている別のデスクは気が向くとヌーヴォーロマンについて語り出したりしていたといいます。古典教養主義がまだ生きていました。
宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん
- 坂出市出身。約40年書籍の販売に携わってきた、
宮脇書店グループの中で誰よりも本を知るカリスマ店長が
珠玉の一冊をご紹介します。 - 写真
宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん
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