土地は誰のものか
人口減少時代の所有と利用

著:五十嵐 敬喜/岩波書店

column

2022.04.07

土地のあり方というものは、人々の生活や行動に大きな影響を与え、国家のあり方や存亡にも大きく関わるということを、最も強く、危機感をもって警告したのは、あの国民的作家、司馬遼太郎であったと本書のはじめに紹介されています。バブル期に起きた地価高騰による人心の荒廃は、太平洋戦争を起こし、負けて降伏した、あの事態より深刻なのではないかとまで司馬遼太郎は言っています。

1980年代後半からのバブルによる地価高騰に対応するため土地基本法が1989年(平成元年)に制定されました。その目的は主として開発の抑制でした。それから30年後の2020年(令和2年)にその土地基本法の改正が行われました。これは、近年目立って増えてきた、不明土地や空き地・空き家の増大など土地をめぐる地価高騰とは別の、異常事態の発生に対してのことです。バブル全盛のころ、日本の土地の値段の総計が、アメリカ全土の地価の2倍以上にもなったといいます。また一方で、現在わが国では、空き家が全国に850万戸も増え、やがて1000万戸にもなるといいます。さらに誰が所有しているのかわからない不明土地の面積が九州と沖縄を合わせた面積を超え、間もなく北海道全域の面積に広がるといわれています。

これらに対応するためには著者は「明治憲法以来の土地所有権は絶対的なものであり、誰も侵すことが出来ない絶対性のもと土地はどのように利用しても、またどれだけ儲けようと、さらに誰に売却しようと自由であるという考え方が基本となっている」と土地所有権の改正を提案します。さらに明治憲法制定以来130年あまりたって、「土地は放置しても自然に値上がりしてくれる財産から、所有していること自体が面倒で負担ばかりになるというマイナス財産になった」ともいいます。

著者は土地は個人のものでも国家のものでもなく、公的なものであり、土地の共同利用というありかたの「現代総有」という考え方を提案します。個人的には人類がこの地球に現れる以前から地球に存在する山々を土地所有権を盾に勝手に削り取って、風景を一変させる権利というものが本当に認められるのでしょうか。

山下 郁夫

宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

坂出市出身。約40年書籍の販売に携わってきた、
宮脇書店グループの中で誰よりも本を知るカリスマ店長が
珠玉の一冊をご紹介します。
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宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

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