
1980年代後半からのバブルによる地価高騰に対応するため土地基本法が1989年(平成元年)に制定されました。その目的は主として開発の抑制でした。それから30年後の2020年(令和2年)にその土地基本法の改正が行われました。これは、近年目立って増えてきた、不明土地や空き地・空き家の増大など土地をめぐる地価高騰とは別の、異常事態の発生に対してのことです。バブル全盛のころ、日本の土地の値段の総計が、アメリカ全土の地価の2倍以上にもなったといいます。また一方で、現在わが国では、空き家が全国に850万戸も増え、やがて1000万戸にもなるといいます。さらに誰が所有しているのかわからない不明土地の面積が九州と沖縄を合わせた面積を超え、間もなく北海道全域の面積に広がるといわれています。
これらに対応するためには著者は「明治憲法以来の土地所有権は絶対的なものであり、誰も侵すことが出来ない絶対性のもと土地はどのように利用しても、またどれだけ儲けようと、さらに誰に売却しようと自由であるという考え方が基本となっている」と土地所有権の改正を提案します。さらに明治憲法制定以来130年あまりたって、「土地は放置しても自然に値上がりしてくれる財産から、所有していること自体が面倒で負担ばかりになるというマイナス財産になった」ともいいます。
著者は土地は個人のものでも国家のものでもなく、公的なものであり、土地の共同利用というありかたの「現代総有」という考え方を提案します。個人的には人類がこの地球に現れる以前から地球に存在する山々を土地所有権を盾に勝手に削り取って、風景を一変させる権利というものが本当に認められるのでしょうか。
山下 郁夫
宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん
- 坂出市出身。約40年書籍の販売に携わってきた、
宮脇書店グループの中で誰よりも本を知るカリスマ店長が
珠玉の一冊をご紹介します。 - 写真
宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん
おすすめ記事
-
2024.07.04
散歩哲学 よく歩き、よく考える
著:島田 雅彦/早川書房
-
2021.11.04
やさしくない国ニッポンの政治経済学 日本人は困っている人を助けないのか
著:田中 世紀/講談社
-
2019.08.01
日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学
著 小熊 英二/講談社
-
2019.04.18
いま、息をしている言葉で。「光文社古典新訳文庫」誕生秘話
著 駒井 稔/而立書房
-
2025.01.03
いつも、そばに
宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫
-
2024.12.19
新聞のススメ
1日15分でつくる教養の土台著:高井 宏章/星海社
-
2024.10.17
なぜ働いていると本が読めなくなるのか
著:三宅 香帆/集英社
-
2024.08.01
天気の不思議を読む力
著:トリスタン・グーリー/エイアンドエフ
-
2024.06.06
日本の物流問題-流通の危機と進化を読みとく
著:野口 智雄/筑摩書房
-
2024.01.04
世界を動かした名演説
著:池上 彰、パトリック・ハーラン/筑摩書房
-
2023.12.07
超インテリアの思考
著:山本 想太郎/晶文社