交通崩壊

著:市川 嘉一/新潮社

column

2023.06.15

著者はこう指摘します。日本の交通行政は部分最適の集合体である。そろそろ全体最適を意識した総合的な交通政策を構想すべきではないか。つまり新幹線の延伸によって寸断される鉄道在来線のネットワーク、ヨーロッパで復活が続くが、日本では広まらない路面電車、自転車に加え、この7月から許可される電動キックボードが走り、著者に言わせればカオス化がますます進んでしまう歩道、権限を警察が握り、まちづくりの観点での施策が進まない道路行政などです。著者はこのままでは日本は交通崩壊へ向かうしかないと言います。

人も鉄道もクルマもバスも路面電車も含めた総合的な交通政策がいつどのような形で出来るのか、今のところ想像することすら出来ません。人口減少の問題もふまえて議論することは山ほどあると思います。著者はまず鉄道に関してはその在り方を再定義する必要があり、国土政策としても鉄道ネットワークの維持は絶対必要であり、線路と車両の上下分離をもっと進めてもいいのではないかと言います。クルマに関しても、今業界はガソリン車が出現して以来の大変革期だと言われていますが、もっと大きな変革になるかもしれないCASE革命と呼ばれるクルマのデジタル化を促す動きが、すでに世界的に大きな潮流になりつつあります。自動車評論家の故・徳大寺有恒も30年前の著書でこう述べています。「そして最後は、自動車はいつまで個人所有でいられるだろうか。個人所有でなくなるときは、自動車が自動車でなくなるときですね。…これは、自動車産業ではなくなるときですね。あるいは、電力会社の電気みたいになるかもしれない」。無人運転とはそういうことかも知れません。

最後に選挙の票に結び付きやすい道路建設は別として、公共交通や歩道環境は日本では政策課題としては重要視されずにきましたし、今でも交通に対する政治家の関心の低さは残念ながらそれほど変わっていないと著者は嘆きます。海外ではパリの女性市長は自転車で15分以内に街の基本的な機能にアクセスできるようにする、15分圏構想を打ち出しましたし、イタリアのミラノでも市内の道路35㎞を対象に車道を削減し、歩行者と自転車のための空間を広げるという、羨ましい計画が始まっていると言います。

山下 郁夫

宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

坂出市出身。約40年書籍の販売に携わってきた、
宮脇書店グループの中で誰よりも本を知るカリスマ店長が
珠玉の一冊をご紹介します。
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宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

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