おむすび論争2010

香川県教育委員会 教育長 工代 祐司

column

2019.04.18

4回目となる瀬戸内国際芸術祭が4月26日に開幕する。2010年の第1回と比べて決定的な違いは、会期が春夏秋の3シーズン制になったこと、会場が高松沖の7島から中・西讃の島も加えた12島に拡大されたことだ。内容も充実し、認知度も格段に高まった。第1回に関わった者として感慨も一入だ。

2010年、7月19日(海の日)の瀬戸芸オープニングに向け、課題が山積していた。特に飲み物、食べ物をどのぐらい、どの頻度で、どういう手段で島に運ぶかは最重要だった。来場者が厳しい暑さの中、水一杯、あんぱん一個手に入らない事態も十分想定された。

そのような中「おむすび論争」が起こった。地元企業の経営者で瀬戸芸の盛り上げに取り組んでくださったSさんから一つの提案が寄せられた。サンポート高松から島へ向かう人たちにおむすびを無料でお接待したいというものだ。「国内外から香川・瀬戸内に来てくれた、特に若い人、朝ごはんも食べずに船に飛び乗る者も多いことだろう。一個のおむすびが彼らに元気を与え、瀬戸内のいい思い出になる。何よりお接待はお遍路文化なのだから」

これに対して私たち事務局は「無料提供ではなく、30円でも50円でも何がしかの対価を取ってほしい」とお願いした。瀬戸芸を開催するにあたり、いくばくかでもお金が地元に落ちる仕組みを作りたかったからだ。地域への経済的な循環を広げることで地域の活性化を図る。その積み重ねが瀬戸芸の持続可能性を高めていくのだという思いが強かった。

当然、両者の議論はかみ合わない。そうこうしているうちにオープニングを迎えた。議論を続ける暇がなくなった。お互い多忙を極めた。Sさんらは初志を貫徹した。おむすびは、朝、お腹を空かした若者たちをはじめ多くの来場者の救いの糧となり、心から喜ばれた。

地域を舞台とした瀬戸芸のような催し物には、多くの人の協力・協働が不可欠だ。瀬戸芸に関わる一人一人の地域への思いとその表現は多種多様である。正しい正しくないという概念は意味をなさない。志の方向性の問題だけだ。さて、今回の瀬戸芸ではどのような論戦が交わされているのだろう。活発な議論を期待している。

香川県教育委員会 教育長 工代 祐司

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香川県教育委員会 教育長 工代 祐司

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