It Takes a Village to Raise a Child

香川県教育委員会 教育長 工代 祐司

column

2018.11.15

「一人の子どもを育てるには、一つの村が必要だ」という言葉で、彼女は発表を締めくくった。先日、小学校の先生の体験発表会が開かれた。ある先生が自身の採用当時の体験談を語った。初めて赴任した学校。校舎にはさわやかな海風が流れ込み、新米教員の胸は弾んでいた。

しかし、すぐに一人の児童の対応に行き詰る。何をしても裏目に出る。下校途中も心配で、そっと後をついて家まで見送る日々が続いた。それでも児童の心は開かない。そんな状況を救ったのは、近所のおばあちゃん。おばあちゃんの児童への声掛けと、彼女への励ましが、魔法のように事態を改善させていく。

次の赴任校では、ある児童の保護者さんと指導を巡る意見の相違が生じた。非難の言葉に彼女は戸惑う。鉛のような気持ちの毎日。そんな時、「あの子はね、リラックスすると自分から意思表示するんよ」「ありのままを受け入れたらいい」「あせらずに。笑顔で!」気付きや励ましの言葉をくれたのは、ここでも地域の人たちだった。

「一人の子どもを育てるには、一つの村が必要だ」というアフリカの伝統的な言い習わしが心に浮かんだ。地域の中に、共に子どもを見守り、励ます支えがあることの重要さ、子どもの幸せのためには、力を合わせて取り組むことの大切さを心の底から感じたという。

今、全国の小学校や中学校では、心理や社会福祉などの専門家が教職員と協力して、子どもたちの課題解決を図る「チーム学校」の取り組みとともに、「コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)」の導入が進められている。この制度は、保護者だけではなく地域住民の皆さんが学校の運営に直接参画することにより、地域と学校の連携を深め、地域とともにある学校づくりを目指すものだ。

核家族化やインターネット社会、人間関係の希薄化など、子どもたちを取り巻く状況は大きく変わりつつある。この中で、子どもたちが夢に向かって生き生きと育っていける環境をつくっていかなければならない。言うまでもなく、子どもは地域の宝だ。一つの村(地域)で協力・協働して子どもたちを育てていく。人類発祥の地アフリカに源を発するこの格言が、今、改めて心に響く。

香川県教育委員会 教育長 工代 祐司

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