
「めおん」から高松港旅客ターミナルビル(中央)を望む
小豆島、豊島、直島、女木島、男木島、大島を結ぶ離島航路が発着する高松港。島の人たちが世代を超えて通ってくる理髪店、それが「理容きたじ」です。
店主の北地則之さんは、お客さんとのコミュニケーションを大事にします。「そうかタコ漁は難しいか。父ちゃんのすごさ分かったか」「帰省したんや。ばあちゃんが島で待っとるで」。店内には島の暮らしや家族の話題があふれています。
彼の床屋哲学は「お客さんのことをよく知る」ことです。その結果、人となりはもちろん、「Aさんは港から農協の横を通って5分、自治会長のBさんの西隣りや」てな具合に集落の様子も頭の中に見事に整理されています。
「うちの店は縁側なんや」と北地さんは思いを込めます。海と陸の境にあって、島や港、街の人が居合わせ、会話が生まれ、顔なじみになっていく。島を去った者も故郷の匂いを求めてやってくる。彼の望み描く店の有り様を古民家の縁側にたとえるのです。
私が幼いころ、縁側付きの家屋は普通でしたし、集落や商店にも人が寄り合う縁側的な場所が多くありました。しかし経済効率優先が進み、役目の曖昧な空間である縁側は、無駄で非効率な場所として姿を消していきました。
また、北地さんは「島は観光地ではない」と言い、「島は非日常」という観光宣伝に眉をひそめます。島は人々の暮らしの場に他ならないからです。一方、瀬戸芸の開催は心から喜んでくれました。島が少しでも元気になること、それは彼の喜びでもあるのです。
地域を思う人がいて、地域の人が集う場がある、そこにコミュニティが生まれる。公か私か、商売か否かを問わず、地域づくりとは小さな縁側をつくり続ける営みのことかも知れません。
散髪を終え外にでると、アリーナの大屋根と外資系ホテルの建設現場が迫ってきます。瀬戸芸帰りのお客さんが船から流れ出てきます。風景が大きく変わろうと、港が見える理髪店の日々はこれからも続いていきます。
(文・写真 工代祐司)
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