新地方論 都市と地方の間で考える

著:小松 理虔/光文社

column

2022.12.01

新しい地方論とはどんなものなのでしょうか。昔こんな歌がありました。「田舎のいやらしさは蜘蛛の巣のようで、おせっかいのベタベタ息がつまりそう。義理と人情の蟻地獄、俺らいちぬけた。ところが町の味気なさ砂漠のようで、コンクリートのかけらを食っているみたい。ニヒリズムの無人島こいつもいちぬけた」。少し歌詞のあいだを省略させていただきましたがこんな内容で、当時よく聞いた歌です。田舎からも町からもいちぬけて、どこへ行けばいいのか分かりませんでしたが、歌の中でも自然とともに暮らすといった感じで答えはあいまいでしたが、その問いは今でもずっと続いているように思います。

ところで今回紹介する本の中で著者は都市対地方といった「どちらか」を選択するのではなく、「どちらも」うまく活かせばいいと考え、観光、居場所、政治、アート、スポーツ、食、子育て、そして死など10のテーマでそれを自分ごととして考えようといいます。今、圧倒的に地方は都市にたいして弱い立場になっています。地方の良さというものもあくまで都市目線ではかったもので、都会から来た人が好む、食であったり、町並みであったり、景色であったりします。本来はその土地の人のためのものです。でもそれは対立してどちらか一つを選ぶのではなく、どちらも活かす方法を考えなければいけないと著者は何度も訴えます。

もちろん高齢化がどんどん進む地方は大きな問題が山積しています。個が尊重されるが孤立しやすい都会、なにかにつけ個人ではなく集団の論理が優先されてしまう地方。孤立も嫌だし、個人が大切にされないのも嫌である。個人同士がゆるやかにつながるようなコミュニティはどうあるべきかを著者は追及します。

衆議院小選挙区の議員定数10増10減案も国会を通過して、東京都や神奈川県や愛知県などは増え、香川県は変わらないようですが、近くでは岡山県や愛媛県などでも減ってしまうようです。あまりに杓子定規に人口で決定され、東京などの都市部の声ばかり大きくなり、地方の声はますます小さくなってしまわないか心配です。地方のあり方、ひいては自分の住んでいる町のあり方を考えている人は是非一読を。

山下 郁夫

宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

坂出市出身。約40年書籍の販売に携わってきた、
宮脇書店グループの中で誰よりも本を知るカリスマ店長が
珠玉の一冊をご紹介します。
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宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

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